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翌朝(京介×葵)2

「一緒に食べる?」 甘いものが苦手な京介が、蜂蜜がけのパンケーキなど食べるわけがない。そうと分かっていても提案したくなる。すると京介は少し迷った顔をした後、葵を抱き締めてきた。 「それ食ったらなんか作って」 面倒見が良く世話焼きな性格ばかりが目立つけれど、たまにこうして葵だけには甘えてくることがある。本人に言ったら怒るだろうが、自分よりもずっと大きな彼を可愛く思う瞬間だ。 母や遥に教わって少しずつ作れる料理は増えてきたが、京介のためだけに振る舞う機会は少ない。だからか、昨夜葵が用意した夕食を食べた彼は大袈裟なくらい喜んでくれた。 元々自分の少食克服のために料理を作る側の勉強をし始めただけなのが、京介がこれほど嬉しがってくれるのならもっと上達したいと思わされる。 「胃袋まで掴まれたらどうすりゃいいんだよ、マジで」 チュッと音を立ててキスしてくる京介の苦情はくすぐったくて仕方ない。 「お母さんのほうが上手だよ」 べた褒めしてくれるのはありがたいが、葵の料理はまだ見栄えも良くないし手際も悪い。照れ隠しで言い返せば、京介は更に葵を抱く腕に力を込めてきた。 「お前が作ったっていうのがいいの。百面相して作ってるとこも可愛いし。正直エプロンがやばい」 料理している姿を京介がそんな風に捉えているとは知らなかった。レシピを携帯で調べながらバタついている所はカッコ悪くてあまり見られたくはないが、そこも好きなのだと言われると返事に困ってしまう。 「……僕も京ちゃんが作ってくれるパンケーキが一番好き。そういうこと、かな?」 ナイフで一口サイズに切り分けたパンケーキを口に運びながら、葵は自分を抱きすくめたままの京介を見上げた。技術や見た目の話ではない。京介が自分のために作ってくれた、その事実が幸せな気分で胸を満たしてくれるのだ。 「多分そうじゃねぇの?」 「じゃあわかった気がする」 こうして京介が傍に居るだけでより美味しく感じるのも道理は同じなのだと思う。少し不恰好なパンケーキは葵にとっては世界一のご馳走だ。 「美味しかった、ありがとう。じゃあ今度は京ちゃんのごはん、作ってくるね」 「や、ちょっと待って」 本当はもう少しゆっくり味わいたかったが京介が空腹のままでいることを考えれば早く食事を済ませなければならない。最後の一口を飲み込んですぐに席を立とうとすると、思いのほか京介がそれを引き止めてきた。葵の腕を引いて当たり前のように唇まで重ねてくる。 「あまっ……お前よくこんなの食えるな」 勝手に葵の唇に残る蜂蜜を舐め取って苦い顔をするのだから呆れてしまう。それに文句を言いながら再び唇を近づけてくるのだ。 「んッ、京ちゃん、ごはんは?」 「後でいい。やっぱ服着せりゃ良かった。これで我慢しろっつーほうがどうかしてる」 啄むだけのキスを繰り返しながら京介の手が伸びてくるのはTシャツの裾から覗く剥き出しの太もも。自分でこの格好をさせておいてあんまりな言い分だ。 「こ、ここじゃダメだよ?」 「さすがに今は抱かねぇよ」 そう言うけれど京介の手は堂々とシャツをたくし上げてくるし、太ももを揉んでいたもう片方の手も葵のお尻へと遠慮なく移動してくる。言動がちぐはぐだ。 「昨日無理させたのも分かってるし、飯食いたいからちょっとだけ」 気遣う素振りでちっとも譲る気はないらしい。もしかしたら今日一日、このままの雰囲気でグズグズにされてしまうのではないか。不安になって京介を見つめるが、相変わらずご機嫌な彼はキスを再開させるばかり。

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