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翌朝(奈央×葵)※未来編
癖の無い焦げ茶色の髪。葵を眠りから目覚めさせたものの正体がそれだった。布団の中で軽く身じろぎしたせいで傍で眠る葵の頬を掠めたようだ。
「……奈央さん?」
恋人の名を呼んでみるが、どうやら彼はまだ眠っているようだ。返答はない。けれど代わりに繋いだ手にわずかに力がこもった。
一緒に眠る時はこうして必ず葵の手を捕まえていてくれる。頻度は大分減ったけれど、それでも時折悪夢を見てしまう葵の変化にすぐに気が付けるように。そう言って奈央はいつでも葵を包んでくれる。
高校時代、学園内で彼は"王子"と呼ばれていた。奈央自身はその呼び名を気に入ってはいないようだったが、葵は今もぴったりな名称だと思う。見た目もさることながら、優しくて穏やかな彼は童話に出てくる王子様そのものだ。
しばらく奈央の寝顔を見つめながら再び眠気が来るのを待っていた葵だが、こんな風に先に目覚めてしまうことは珍しい。せっかくだからと、葵は彼の髪に指を通してみたり、頬を突いてみたり。眠っている隙に思いつく限りの悪戯を仕掛けてみるが、やはり起きる気配はない。
次に葵が触れたのは彼の少し薄い唇。この唇が昨夜葵に沢山のキスを与えてくれた。思い出すだけでも満たされた気分になるのが不思議だ。
「奈央さん、大好き」
無性に恋しくなって葵からそんな告白とともに彼の唇にそっとキスを贈ってみる。奈央が眠っていると信じているから堂々と行えることだ。
けれど唇を触れ合わせた瞬間、色白な部類に入る彼の肌が瞬時に赤くなった。
「え、奈央さん、起きてたんですか?」
「……ごめん、目を開けるタイミング失って」
奈央は突然のキスに照れて、葵は彼が目覚めていることに驚く。お互い顔を赤くして見つめ合った後どちらからともなくこの状況のおかしさに笑みが溢れてしまう。
高校からの付き合いだというのに、未だに軽度のスキンシップにすら赤面する状態は二人の関係を見守ってくれる周囲からするとそろそろ呆れる域に達しているらしい。けれどこればかりは仕方ない。彼にいつでもドキドキさせられるのは変わらないのだ。
「おはよう、葵くん」
眠っている隙にキスをしかけた葵のことをからかうことはせず、奈央はそうして仕切り直しのキスで返してくれる。彼のこういう優しさが堪らなく好きだ。
「朝ごはんどうしようか?天気良いみたいだからまたどこか外に食べに行く?」
寝癖の付きやすい葵の髪を撫でながら、奈央はベッドに差し込む光の元を視線で辿ってそう提案してくる。確かにカーテンの隙間からは青い空が広がっているのが見えた。
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