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翌朝(奈央×葵)2

「このあいだ見つけたパン屋さんはどうですか?」 「クロワッサンが一押しのところだよね?そこにしようか」 近所を散策することも二人にとっては大切な時間だった。その都度良さそうな店を見つけてはこうしてお気に入りを増やしていく。その過程もこの上なく幸せだ。 奈央と過ごす穏やかな時が自分にとってかけがえのないものだと気が付いたのはいつからか。彼は葵が意識するよりも前からずっと葵を愛しく思ってくれていたのだと言うが、今は葵のほうが彼を好きでいる自信があった。 今もベッドから降りようとする彼のパジャマを掴んでつい、引き止めてしまう。 「どうしたの?もう少し寝たい?」 奈央は葵の手を振り払うことなく、再び隣に並んで寝転んでくれる。髪を同じ、焦げ茶色の優しい瞳にジッと見つめられるだけで胸が高鳴っていく。 「あの、もうちょっとだけ……」 どうしたいかはなかなか口に出来ない。昨夜のように沢山キスしたいとか、彼にギュッと身を寄せたいとか、思い浮かびはするけれど言葉にするのは難しい。言いかけたまま口ごもる葵に奈央はフッと小さく笑うと、優しく抱き寄せてくれた。 「一応これでも年上らしくしなきゃって思ってるのに、そんな顔されたら揺らいじゃうよ」 言葉と共に寝癖のついた前髪がかかる額にキスまで落としてくれる。葵が何を求めているのか察して先回りするどころか、葵の甘えたがりを知ってもこうして”自分もしたかったこと”というスタンスで受け止めてくる彼にはいつも幸福にさせられるのだ。 額に落ちた唇はそのまま目元へ下り、頬を伝って唇までやってくる。確かめるように奈央に見つめられて頷けば、ゆっくりと唇が触れ合った。さっきのキスだけでは足りなかった心にじわじわと熱が灯っていく。 奈央と恋人になってから、共にいる時間で幸せ以外の感情を覚えたことがないかもしれない。そのぐらい葵の気持ちを一つずつ汲んで大切に慈しんでもらっている。 でも時折幸せ過ぎて不安にもなるのだ。優しい彼は、葵がしたいことにただ応えてくれているだけなのではないか、と。だから彼の熱を直接感じると安堵することが出来る。 「いっぱいしても足りないです。いつからこんなに欲張りになっちゃんたんだろう」 しばらくキスを繰り返してから葵は素直な気持ちを吐露する。手を繋ぐだけでも十分心が満たされていたはずなのに、いつのまにかもっと、もっとと貪欲になっていく。それが怖くもあった。 「じゃあ一緒だね」 たった一言で葵の不安を包んでくれる。彼が恋人で良かったと実感する瞬間だ。

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