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翌朝(遥×葵)※未来編
ブラインドから僅かに差し込む日差し。その眩しさで、夢の世界から現実へと引き戻されていく。少しでも抵抗したくて布団を被り直せば、耳元で小さな笑い声が聞こえた。
「二度寝する気だな?起きるの待ってたのに」
そう言って、恋人は葵の頬にキスを落としてきた。彼の腕を枕にし、背中から抱きすくめられるようにして眠る。正面から向き合うよりも密着できると知っていつのまにか定番となった体勢は、葵をこの上なく安心させる。
「おはよう」
「おはよ、遥さん」
朝の挨拶を交わせば、ただそれだけで褒めるようにもう一度キスが贈られた。首筋にかかる彼の髪から、一緒に選んだシャンプーの香りがする。それだけでくすぐったくなるほどの幸せに満たされる。
「こっち向く?」
「……うん」
誘導されるままに体ごと振り向けば、こちらを真っ直ぐに見つめる遥と目が合う。
その綺麗な顔立ちと髪の長さのおかげで中性的な印象を与えることが多いが、最近の遥は凛々しさや精悍さが増したように葵は感じている。外見に変化があったというよりは、醸し出す雰囲気が変わった気がするのだ。
「どうした?やっぱりまだ眠い?」
遥の顔を見つめたまま固まっていると、微睡んでいると勘違いされてしまった。二度寝を阻止したくせに、眠りを誘うように優しく髪を撫でられる。
「ううん。かっこいいなって思ってただけ」
「ハハ、それはどうも。でも散々見てるだろ?急に惚れ直した?」
“惚れ直す”、その言葉で気が付いた。変わったのは遥ではなく、葵側なのかもしれない。
とびきり優しくて、それでいて時折厳しくもある。そんな幼馴染の頼れるお兄さんだった遥が、自分にどんな想いを抱いているか。それを知り、応えたいと思い始めてから、彼の一挙一動に過剰にドキドキするようになってしまった。
「そう、かも。毎日そうかも」
「へぇ、毎日か」
葵の発言を茶化すでもなく、遥はどこか満足そうに微笑み始めた。
「じゃあいつか俺に追いつけるといいな」
好意の大きさも深さも、自分のほうが圧倒的に勝っているのだと遥はいつも言う。葵の告白を受けて喜んではいるものの、余裕のある表情は崩さない。悔しいけれど、彼が長い間一途に葵を愛してくれたことを知っているから張り合うことは難しい。
「目、覚めてきたな。そろそろ起きようか」
葵がもう少しベッドで寝転んでいたいことがバレてしまったのだろう。軽い口付けを落とすだけで、あっさりと体を離してしまうところが遥らしい。だからこそ、彼が甘やかしてくれる時はとことん溺れてしまうのだ。
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