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翌朝(都古×葵)※未来編

腰をなぞるひんやりとした感触。遠くで聞こえるアラームの音で眠りから覚めた葵が最初に感じたのはそれだった。ひとまずぼんやりする視界の中、手探りで枕元の携帯を操作しアラームを止めるが、パジャマへの侵入者はちっとも起きる気配がない。 何度言い聞かせても、葵の素肌に触れていたがるのだ。ただ抱き締めるだけなら良いが、困るのは彼がパジャマを捲り上げてまで直に肌を撫でてくること。無意識のようだから余計にタチが悪い。 「みゃーちゃん、起きて」 向かい合わせの彼の胸をぽんぽんと叩いて起こすことを試みるが、この程度で起きたら苦労はしない。甘えん坊で寝坊助な恋人を目覚めさせることが、朝一番の葵の仕事だ。 静かに寝息を立てて眠る姿は可愛くて、出来るだけ長く見つめていたいとは思う。けれど、そうしていると葵まで二度寝に誘われ、結局休日は二人して昼頃まで寝てしまうこともしばしば。 周囲に不安視されながら始めた二人暮らし。やはり無謀だったと思われないためにも、葵がしっかりしなくてはいけない。 「昨日ちゃんと起きるって約束したよね?」 都古の頬をツンツンと突きながら、昨晩のことを振り返る。 朝と呼べる時間に起きられるよう、夜は早く寝ようと提案した葵に対し、都古は珍しく反対してきた。恋人になってもまだ飼い猫としても振る舞う彼は、基本的に葵の考えには従う傾向にある。それでも昨夜の彼は、葵とじゃれあう時間が減るのが嫌だと主張してきたのだ。 それからキスを仕掛け、実力行使で押し倒してきた都古となんとか約束を交わした。このまま抱き合う代わりに翌朝はきちんと目覚める、と。 「みゃーちゃん、約束は?」 「んー……ねむい」 「だから早く寝ようって言ったのに」 葵の胸元にぐりぐりと頭を擦り寄せてきた都古は、眠りからは覚めてくれたようだが、まだまだ起き上がれる状態ではなさそうだ。 「じゃああと五分だけ。それで起きるんだよ?」 きっとこうして都古を甘やかしてしまうから、いつまでも解決しない。分かってはいるが、葵の提案に嬉しそうに頷かれるとどうでも良くなってしまうのだ。 結局都古が起き上がってくれたのはアラームをかけてから三十分が経過した頃だった。それでもいつもの休日よりは早い起床。 「えらい?」 約束自体は守れなかったはずなのに、得意げに褒めて欲しがる都古を愛しいと思う。

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