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翌朝(都古×葵)2
交代で顔を洗い、鏡の前で並んで歯を磨く。些細な日常の一コマだけれど、都古と暮らしているのだと実感できて、くすぐったくなる。
高校を卒業したら寮生活が終わり、離れ離れになる。都古と出会ってから覚悟していた未来は、彼の愛情に応えることを選んで大きく変わった。この先もずっと一緒だと誓ってくれた都古の存在が、どれだけ葵を救ってくれたか分からない。
「みゃーちゃんが作ってくれるの?」
髪を括り、キッチンに向かった都古の後を追いながら尋ねると、彼は頷きを返した。
元々紗耶香や遥の手伝いで多少は料理の経験があった葵と違い、都古は全くと言っていいほど何の心得もなかった。だから一緒に暮らす際には料理は葵の分担だとなんとなく考えていたけれど、予想に反し、都古は積極的に覚えようとしてくれている。
言葉数は少ないが、こうした行動一つで彼からの愛情を十分に感じられる。
「甘いの?」
冷蔵庫から取り出したもので都古が何を作ろうとしているか、すぐに予想はついた。
「うん、甘いのがいい」
「わかった、がんばる」
本当なら都古が調理している間、葵が他の準備を進めるべきなのだと思う。けれど、彼がぎこちなく卵を割ってかき混ぜ、フライパンに注ぐ姿を見守っていたい。心配なわけではなく、葵のために動いてくれる彼を見ているだけで幸せなのだ。
「……ごめん、ちょっと焦げた」
「大丈夫、美味しそうだよ」
出来上がったのは少しだけ不恰好な玉子焼き。でも葵にとって何より嬉しいご馳走であることに間違いない。ホッとしたように息をつく都古に、自然と笑みが溢れる。
都古の分の玉子焼きは葵が作ってやり、昨夜の残りの味噌汁を温め直せばごく簡単な朝食の出来上がりだ。遥が時折差し入れてくれる手作りの惣菜も食卓に並べれば、随分見栄えは良くなる。
「お昼ごはん、どうしようかな」
「もう、考えるの?」
箸を進めながら思わず漏らした呟きに、都古は不思議そうな目を向けてくる。きっと夕飯のことも頭をよぎっているのだと打ち明けたら、呆れてしまうかもしれない。
でも都古は葵の悩みを解決するべく、一緒に考えようとしてくれる。
「おにぎり」
「……だけ?」
「うん」
都古はこんなことで葵をからかったりはしない。いたって真面目な回答なのだろう。だから葵も真剣に考えてみる。
「じゃあおにぎり作って、お散歩行く?今日は天気が良さそうだから」
家で食べるには少し味気ないメニューも、持ち出せば立派なお弁当になる。休日はベッドにこもりたがる都古を外に連れ出す良いチャンスかもしれない。
「お昼寝、付き?」
「いいよ、じゃあシートも持って行こうか」
結局は外に出ても都古は寝たがるのだけれど、彼とのんびり過ごす時間は葵にとっても大切なもの。賛成してやると、きつく見えがちな彼の目が優しく細められた。
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