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翌朝(都古×葵)3
自分たちが居た学園は随分特殊な環境だったのだと、外の世界に出て初めて思い知った。当たり前のように都古と手を繋いで歩くと、時折周囲から刺すような視線が向けられることにも気が付けるようになった。
好奇心か、それとも別の感情か。何にしても気持ちのいい視線ではないけれど、都古は決して怯まず、葵の手を離すこともしない。
何があっても傍にいる。誰に何を言われようと愛し続ける。
出会ってから幾度となく紡がれた彼の想いの深さが、今の葵には痛いほど分かる。家ではとびきり甘えてくる彼が、外ではどんな物からも守るように葵の前に立ち、手を引いてくれるのだ。
「みゃーちゃん」
名を呼べば、葵だけに見せる優しい笑顔が見下ろしてきた。
「早く二人になりたい」
「うん、俺も」
思わず甘えるような言葉を吐けば、同じことを考えていると言って葵を安心させてくれる。
家から二十分ほど歩いて辿り着いたのは、ランニングコースとしても有名な河川敷。休日になるとスポーツに勤しむ人や、家族連れで賑わうスポットだ。
人目を避けるように河原を進み、以前見つけた木陰にシートを敷く。薄いビニールのシートが風に煽られるのを二人掛かりでなんとか地面に押さえつける、その作業すらなぜか楽しくて仕方がないから不思議だ。
景観自体はあまり良いとは言えないこの場所は、時折人の声が聞こえてくる程度で見渡す限り人影はない。
「もうお昼寝しちゃうの?」
「ちょっと、横になるだけ」
木の幹に背を預けて座る葵の膝に早速ごろんと頭を乗せてきた都古。伸ばされた手を握り、もう片方の手で彼の髪を撫でてやれば、ゆるりと瞼が伏せられた。
「……アオ、大好き」
彼の薄い唇が、寝言のように愛を紡ぐ。それだけでどうしてこうも胸が切ないほど締め付けられ、熱くなるのだろう。
彼と幸せになる。これからもずっと一緒に穏やかな時間を過ごしていく。
その未来が揺るぎないものだと信じられるのは、彼が葵に何もかもを捧げて愛し続けてくれるからだ。都古が葵に甘えているようで、きっと葵のほうが彼の存在に甘えている。
「ありがとう、みゃーちゃん」
出会ってからずっと葵を愛してくれた。本当に沢山のことがあったけれど、彼は一度だって葵への言動や想いを変えることはなかった。
都古は葵に救われたと言うけれど、葵だってそれは同じ。
「命令、は?」
「またそういうこと言う」
本当に眠ってはいなかったのだろう。学生時代によく使われたお決まりの文句が薄目を開いた彼からもたらされる。恋人になってからは遠慮なく唇を奪うくせに、時折葵をからかうのだ。
「……キスして、みゃーちゃん」
何度口にしても恥ずかしい台詞。でも彼が心底嬉しそうに葵に口付けてくるから、後悔はない。
「一回、だけ?」
わがままで図々しいことを言ってのけるところも好きだ。だから葵はもう一度彼の望む言葉を口にし、二人で笑いながら唇を重ね合った。
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