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保健室(遥×葵)2

「葵ちゃん、これどうした?」 怯えさせないように髪を撫でてやりながら尋ねると、葵は顔を伏せてしまった。でもゆっくりと遥に訳を話してくれる。 いつでも先回りしてあげる冬耶のおかげで葵は自分の言葉で喋るのを諦めている節があったが、こうして遥相手にはどんなに下手でも時間が掛かっても自分で説明しなさいと教え込んできた成果だ。 「バレーボールの授業、で。うまくボール、取れなかったの」 「それで怪我しちゃったんだ?」 「……ん」 葵の言う通りの流れならばただの事故だろう。いくら京介でもただ葵が怪我をしたぐらいでキレるほど考えなしではない。 「でもなんで体育出たんだ?見学しろって言ってたよな?」 屋外はもちろんだが、屋内の授業であってもまだ体力も体格も追いつかない葵には参加しないようきつく言い含めていた。登校して丸一日授業を受けるだけでも精一杯の葵が耐えきれないのは明らかだからだ。 「……ずるい、って言われて」 「ずるい?どうして?」 「課題する、だけで……ずるいって」 遥に叱られることを予測して、葵の口調はさらに歯切れの悪いものになる。でも今の説明で十分だった。 葵は体育の授業に参加しない代わりに、担当教員から出された課題を提出して成績を付けてもらっている。それがクラスメイトから非難されたのだろう。クラスに馴染めていない葵にとってはそうして責められるだけでかなりのストレスだったはずだ。 葵自ら参加したというよりも強引に参加させられた状況に近いに違いない。 「ボール、いっぱい来て……こわかった」 葵をコートに引っ張り出すだけでなく、更に意地の悪いこともされたのだろう。思い出して涙を滲ませる葵をベッドに横たえたまま抱き締めてやれば、葵からも遥の首に腕が回ってきた。 「京介は?そんなことになるまで黙って見てたわけじゃないよな」 「上着忘れちゃったから、京ちゃんが教室まで取りに行ってくれて」 「……あぁ、なるほどな」 クラスメイトは番犬が居ない隙に葵にちょっかいをかけたようだ。見学している間寒くないように、そんな配慮が仇となってしまったらしい。 「で?」 「ケンカ、しちゃった」 見学させているはずの葵がコートに立たされボールをぶつけられていれば、戻ってきた京介がキレるのも無理はない。遥でもその状況なら理性を保てるか自信がないと思う。

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