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保健室(遥×葵)3

「もしかして腕以外も怪我してる?めくっていい?」 葵が頷くのを待って白い布団をめくれば、体操着の半ズボンから覗く膝にも絆創膏が貼られていた。ガーゼ部分にうっすらと血が滲んでいるのが見える。 何よりも大切に守ってきた存在がこんなにも簡単に傷つけられる。それを目の当たりにして頭に血が上らないほうがおかしい。葵を傷付けたクラスメイトに対しては既に京介が手を上げているだろうが、自分も直接制裁を加えないと気が済まない。 けれど、葵にそんな怒りを感じさせれば罪悪感を抱かせるのは分かりきっている。京介はその点不器用だ。 原因が何であれ、クラスメイトに殴りかかって悪者になるのは京介のほうだし、今も呼び出されて説教を食らっているのだろう。もしかしたらまた謹慎処分が下るかもしれない。そうなればその間葵が一人になってしまうことも考えてほしい。 それを防ぐために冬耶が仲裁として走って向かったのだろう。 遥は葵に危害を加えた生徒への怒りを押し殺しながら、慈しむように絆創膏の上から唇を落としてやる。瞬間、葵が驚いたように体を跳ねさせた。 「ごめん、痛かった?」 問い掛けに対しては首を横に振って答えてくれるが、もう一度傷口にキスしようとすると、葵が体を起こし控えめに遥の髪に触れてくる。でも言葉で表現出来ないうちは止めてはあげない。 小さいことだけれど、葵がきちんと感情を言葉にする訓練は積み重ねが重要だ。 「ん、遥、さん」 「どうした?」 言いにくそうに遥のことを見つめてくる葵の瞳にはじわりと涙が滲んでいる。やはり痛みを感じるのだろう。葵を苛めるのは趣味ではない。だが、遥が唇を離して見つめ返せば、葵は思いがけないことを言ってくる。 「きたない、から。遥さん、汚れちゃう」 痛いから止めてほしかったわけではなく、怪我をした場所に遥が触れることが気になったらしい。こういう子だから可愛くて仕方がないのだ。 「葵ちゃんに汚いところなんて一つもないよ」 不安そうな葵にもう一度腕を回せば、甘えるように葵からも擦り寄ってくる。もっとしっかりと包んであげたい。そう考えた遥は腰を下ろす先をベッドへと移し、自らの上に葵を座らせる姿勢を取った。 正面で向き合うのも、背後から覆い被さるのもいいが、今日は横向きで抱き締めてやる。 初めて出会った時から比べれば当然大きくはなっているはずだが、葵はまだまだ小さい。平均にも到底満たない身長も体重もこうして抱く度に不安に駆られる。 誰からも傷付けられないように守ることは簡単だ。外に出さず、ずっと傍に付き添ってやればいい。出会った頃の葵は冬耶と京介にそうして大事にされていた。 でもそれでは根本的な解決には至らない。苦手なものばかりの世界に、一つでも好きなものを増やして欲しい。

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