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保健室(遥×葵)4
「この後の授業は?出られる?」
冬耶や京介ならば聞かずとも今日は問答無用で帰宅させるだろうが、遥はあくまで葵自身の意志を確かめたい。髪を梳きながら顔を覗き込んでやれば、葵は少しだけ悩む素振りを見せたがやはり首を横に振ってきた。遥のシャツにしがみつく手にも力が入る。
「分かった。じゃあ放課後までここで寝てな。今日冬耶は生徒会だから、俺が家まで送るよ」
京介の処遇によっては西名家の両親が呼び出されるかもしれない。どの程度まで彼が暴れたかは分からないが、もし両親が呼ばれればそのまま葵も連れて帰るだろう。でもそうでなければ、自分が家まで付き添ってやる。そう言葉にして葵を安心させてやれば、擦り寄ってくる体の力がわずかに緩んだ。
だが遥を見上げる葵は何か言いたげだ。遥を付き合わせることに対しての遠慮か、謝罪か。そのどちらかだろうと踏んでただ黙って見つめ返せば、葵は遥の予想外のことを言い始めた。
「一回教室、行きたい」
「教室?荷物なら持ってくるよ」
「そうじゃ、なくて……その、お礼……」
「お礼?」
迷いながらではどうしてもまだ細切れになる言葉。それでも葵が伝えたいことを全て吐き出すまでは薄い背中を擦ってただ促すだけに留める。
「羽田くん、に……ありがとう、て」
“羽田”、その名前には聞き覚えがあった。学年は違えど、双子の存在は学園内では非常に目立つ。中等部から編入してきたその双子は揃って葵のクラスに居たはずだ。
でも葵がなぜその子達に礼を言おうとするのかはさすがの遥も予測は出来ない。この半年でもまだ葵はクラスに京介以外の友達など居ないのは分かりきっている。
「京ちゃん、来る前にね……止めて、くれた」
「その羽田くんが?」
「ん……危ないって」
詳しい状況は分からないが、意地悪をされる葵を助けようとしてくれたらしい。親しくない相手が虐げられるのを止めに入るとはきっと正義感が強い子なのだろう。
「……うれしかった」
京介が居なければ味方が居ない。周りが敵だらけの状況の中で救いの手を差し伸べられれば葵がどれだけ嬉しかったか想像に難くない。沈んでいた表情ばかり浮かべていた葵もようやく笑顔を滲ませた。
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