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第9回人気投票お礼(京介×葵)3

「じゃあ葵ちゃん、気を付けて」 「うん、お土産みんなで食べるね」 葵が遥に向かって掲げたのはこの店のロゴが入った紙袋。中には葵好みの菓子が目一杯詰められているのだろう。遥も厳しいようで葵を甘やかすツボはきちんと押さえている。葵がバイトを始めたのもお小遣い目的というよりは、遥に褒められたいからに違いない。 「心配なのは分かるけど、もう高一だからな?兄弟揃って過保護なのも大概にしろよ」 遥は店に戻る前に京介へと顔を寄せてこんな事を囁いてきた。兄と並べられるのは不本意だが、過保護なのは否定できない。言い返せずにただ睨む京介を見て、遥はまるで聞き分けのない子供を見るような目を向け、そして今度こそ立ち去ってしまった。 「お前そんなの持ってたっけ」 葵を自分の傘に招いて駅へと向かいながら、京介は気になっていたことを問いかけた。鼻先まで隠すほど巻いたマフラーは見るからに質が良さそうだ。あまり高価なものを欲しがらない葵の持ち物にしては違和感がある。 「これね、遥さんが貸してくれた。風邪引かないようにって」 「……どっちが過保護だよ」 どこか嬉しそうに微笑む葵に湧き上がるのは嫉妬だけではない。なんだかんだ言いつつ、遥も十分に葵を甘やかしている。予定よりも早く帰らせるのも、自分のマフラーを与えるのも、二つ年下なだけの相手への行動にしては過剰だろう。 「つーかお前マフラー持ってなかった?兄貴が買ってたじゃん」 「チェックのやつはこの間、なくしちゃった」 「は?また?」 思わず声を荒げれば、葵は気まずそうに俯き、そして足を止めてしまった。傘から外れた葵の髪や肩にぽつぽつ冷たい雨粒が染み込んでいく。 これが自分のダメなところだ。自覚しているのに京介はなかなか直すことが出来ない。すぐに傍に寄り傘の中に入れ直してやるが、葵の顔は上がらない。 「いつ?」 「……先週。移動教室から帰ってきたら失くなってて。ちゃんと鞄の中に入れてたのに」 「なんで言わねえの?」 京介は葵に対してというよりは、気がついてやれなかった自分に対して苛立っているのだが、刺々しくなる口調に葵はますます伏し目がちになる。 「京ちゃんに心配かけちゃうから」 葵は雨音にかき消されるほどの声で返してきた。これが根本的な自分たちの問題なのだろう。 確かに私物を失くしがちな葵にはつい、”またか”と呆れ半分で叱ってしまう。だが、決して葵を責めたいわけではないのだ。単なる紛失ではなく、恐らく盗難であることは明白なのに、何も対処してやれない自分に腹が立つ。それを葵に理解させられていない。 ただ京介は口が上手くないと自覚している。葵を言葉で慰めてやることはどうにも難しい。だから京介は黙って葵の腕を掴み、駅への道を強引に突き進むことにした。葵も急な行動に不思議そうな顔をするものの、静かに着いてくる。 葵が次に口を開いたのは京介が家とは反対の方面に向かう電車を選んだ時だった。

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