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第9回人気投票お礼(京介×葵)6

「京ちゃん、ちょっと待ってて」 そう言って葵はまだほんのりと赤い頬のまま、京介を置いて人混みの中に消えてしまう。慌ててその後を追いかけるが、葵が向かった先がチョコレートショップの一角なのが分かり京介はそれ以上深追いするのをやめた。葵のことだ。空間に充満するカカオの香りにあてられて食べたくなったのだろう。遥にお土産を貰ったというのに、小食なはずの葵は甘いものに目がない。 しばらくして戻ってきた葵の手には案の定小さな紙袋が握られている。黒く光沢のある袋に入った金色のロゴは京介でも名前の知っている有名なチョコレートのブランドだ。 「お前どんだけ食うんだよ」 「違うよ、自分用じゃない」 咎めるように額を小突けば、葵からは少し不服そうに言い返された。そしてスッと袋を差し出してくる。 「ちょっと早いけど……ハッピーバレンタイン、京ちゃん」 「は?俺に?」 周囲の喧騒など耳に入らないくらい葵の言葉が真っ直ぐに届く。頭では京介も分かっている。葵の行動に特別な意味が込められていないことぐらい。でも世間でバレンタインがどういう位置づけにあるのかを考えると、どうしても動揺を隠せなくなる。 付き合いは長いが、こうして面と向かってバレンタインにチョコレートを渡される経験なんて初めてだった。そもそも男性同士という間柄で期待をしたこともない。でもいざ渡されると嬉しさを感じるのは否めない。 「マフラーのお礼だよ」 やはりおまけのように付け加えられた言葉で、葵が単に京介への感謝の気持ちを込めた贈り物としてチョコレートを選んだのだと思い知らされる。ただ、それでも構わなかった。葵が自分のことを考え、選んでくれた時間そのものが愛おしい。 「食べきれなかったら手伝うよ」 「……お前、まさかそれ目的だろ」 横に並んだ葵がどこか期待のこもった目で見上げてくるのだから、どこまでも甘党な葵に呆れてしまう。確かにいつもなら甘いものは葵に進んで押し付けているが、これは葵が京介へと選んで渡してきたもののはずだ。 「それ食ってろ」 チョコレートの包みを葵から取り上げるように隠し、葵には彼が手にしている遥からの土産を指し示した。 「じゃあ京ちゃん全部食べてくれるの?苦めのチョコ選んだから、きっと食べられるよ」 お裾分けを断られててっきり拗ねるのかと思えば、葵はもっと嬉しそうに目を薄めてくる。自分の贈ったものが喜んでもらえたと、そう受け取ったらしい。無邪気な反応をされると茶化す気も失せ、ただ気恥ずかしさが残る。

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