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第9回人気投票お礼(京介×葵)7

今度こそ帰路に着こうとすると、外はさっきまでよりも雨脚が強くなっていた。駅のホームで電車を待っていると、吹き込んできた雨が頬を濡らしていく。気になって隣を見下ろした京介の予想に反し、葵は苦手な雨に当たっているというのに穏やかな顔つきをしていた。 「嫌じゃねぇの」 あえて触れるのは野暮だと思うが、葵の態度が気になって思わず京介は疑問を口にしてしまう。 「嫌って何が?」 「雨」 葵はとぼけているのではなく本当に京介の疑問の理由が分からなかったらしい。京介が指摘すると少し驚いたように目を丸くし、そしてはにかんだような表情を見せた。 「んー苦手だけど、ちょっと好きだよ」 相反する言葉を並べて葵は京介を見上げてくる。 「だって、雨の日は京ちゃんが優しいもん」 葵からもたらされたのは思いがけない理由だった。確かに雨の降る日は葵に対して過保護になってしまう自覚はある。だがまさか葵がそんな風に受け取っているとは思わなかった。 「だから苦手だけど、ちょっと好き」 もう一度葵が同じセリフを繰り返した。雨の中で葵の柔らかな声は不思議とよく通る。 彼は一体一日に何度恋しく思わせれば気が済むのだろうか。京介はこみ上げる思いを誤魔化すように、コートの袖からはみ出た葵の手を思わず掴んでしまう。葵もどこかで温もりを求めていたのかもしれない。冷えた指先が静かに絡んできた。 「冬もね、寒いのは苦手だけど好きだよ。手繋ぐと温かいから」 葵の言い分は筋が通っているようで不可思議なものだ。でも京介の手を握りながら宣言されると、否定することも、むやみにその手を離すことも出来なくなってしまう。 互いにプレゼントを贈りあって、手を繋いで同じ家に帰る。その関係は本当に家族や幼馴染の枠に収まるものなのだろうか。 雪混じりの雨に白い吐息を零す葵を見つめながら、京介はついそんなことを考えてしまう。来年の今頃にはもう少し関係が進んでいて欲しいとも思う。京介はその思いが少しでも伝わるよう、繋いだ指に力を込めた。

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