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卒業式(遥×葵)2

「まぁ、何かあっても奈央が何とかするか」 遥たちにとって、忍や櫻よりも付き合いの長い後輩。彼が次の生徒会の要になってくれると信じていた。まだ未完成でちぐはぐな新しい生徒会も、彼がいるから安心して卒業できる。 「な?なっち入れて正解だっただろ」 「もう何度も聞いたって」 冬耶は奈央を生徒会に招き入れた功績を、事あるごとに主張してくる。 確かに冬耶が初めて奈央に目をつけた時、遥は手放しで賛成はしなかった。両親から課せられた習い事に追われ、毎日やり過ごすのに精一杯な生徒。優しく裏表のない性格だとは理解していたが、どこか気弱な印象が拭えなかったからだ。 でも冬耶の手によって重い枷を外された奈央は、見違えるように明るくなった。彼が本来持っていた芯の強さも、思う存分発揮されている。癖のある忍や櫻を良き友人として引っ張っていってもくれている。 何より、葵にとって信頼できる先輩の地位を確立してくれた。人懐っこいように見えて、葵はまだ人間関係に線引きをする傾向がある。そんな葵が気兼ねなく相談し、頼れる存在として奈央を認識していることは、遥たちにとって何より喜ばしいことだった。 在校生による合唱が終わると、式の最後を締めくくる全員での合唱へとプログラムが移る。司会の声で遥も座席から腰を上げた。 こうして制服を身に纏い、校歌を歌うのもこれで最後。そう思うと、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。だが、その気を削いだのは視界の端に現れた後輩の姿。 「……見て、冬耶。捕まったみたい」 前奏の合間に冬耶に耳打ちすると、彼もその存在に気づいて口元を緩めた。 目立たぬように隅にはいるが、周囲から頭ひとつ分以上飛び出た大きな体と、明るい金髪ではその存在感を隠しきれない。おまけにまるで手綱のようにネクタイを掴まれているという不恰好な状態だ。 「やっぱりなっちは頼りになるな」 式の進行を手伝いつつ、泣き出した葵をあやし、逃亡しそうな幸樹を捕まえる。この先奈央の身に降りかかる苦労がこのワンシーンでも窺える。 気まずそうにしながらも、幸樹は横に並ぶ葵と何やら言葉を交わしているようだ。葵の目元に手を伸ばしているから、涙を拭ってやったのかもしれない。その表情は彼が普段見せる浮ついたものとはまるで違ってみえた。 「上野も変えちゃうのかもな、葵ちゃんは」 幸樹を生徒会に招いたのは、遥たちの一つ上の先輩。退学を迫られていた状態の幸樹を見かねて手を差し伸べてやったらしい。 だが当の本人は己の処遇には無関心のようだった。口先だけの感謝を述べつつも、この学園から立ち去る機会を失って困っているようにも見えた。 居場所を見つけられず彷徨い続ける幸樹を、自分たちは結局どうにもしてやれなかった。生徒会という彼にとっての盾にもなり、居場所ともなり得る箱を引き続き用意はしてやったけれど、そこでの過ごし方を決めるのは幸樹自身だ。 幸樹が何かふざけたことを囁いたのか、まだ泣きべそをかいていた様子の葵がふわりと笑顔になるのが見える。 不安要素が全くないとは言い切れない。それでも、遥たちが卒業したあとの生徒会も葵を守る役割を果たしてくれるはず。彼らの様子を見ていれば、この学園に思い残すことはもうなかった。

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