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あじさい(京介×葵)2
* * * * * *
誕生日とクリスマス。この二つは幼い京介にとっては何より待ち遠しい日だった。望むものを一つ、買ってもらえるからだ。
今年の誕生日は随分早い段階でプレゼントを決めていた。憧れのヒーローが変身する時に使うアイテム。どこにでもいるような普通の青年がそれを身に付けスイッチを押すと、途端に世界を守るヒーローに変わる代物だ。
プレゼントは誕生日当日の朝に貰えると思い込んでいたが、それは夜までお預けらしい。
「葵に見せようと思ったのに」
母との押し問答は京介の負けで終わった。悔し紛れで葵の名前を出しても、紗耶香は苦笑いを浮かべながらも折れてくれることはない。
「葵ちゃんに会うためにも、早く着替えないとね?」
パジャマ姿のまま粘っていた京介に、幼稚園の制服が渡される。赤いリボンタイを見ると、さらに気持ちが落ち込んだ。可愛らしいデザインの制服は趣味ではない。葵が同じ幼稚園に通いだしてから、その思いは余計に強くなった。
葵にはよく似合っているのに、鏡に映る自分は違和感しかない。それに、葵にはもっとかっこいい姿を見せていたかった。
「葵、もう出ちゃったみたいだよ」
もうすっかり支度を済ませ、窓から隣家を観察していた冬耶に促されてようやく覚悟は決まった。休みがちな葵が登園するのだと分かれば、今度は一秒でも早く家を出たくなる。
「やっと出てきた。一つお兄さんになったんだから、これからはもう少し上手に支度出来るようにならないとな」
玄関先に出した車の前で待ち構えていた父は、京介がごねていたことは見通しているようだ。苦笑いを浮かべながら乱暴に結ばれたリボンを直してくる。女の子が付けるようなリボンを巻くなんて、何をどう説得されても京介は未だに納得がいっていない。
でも隣に住む葵にこの制服はよく似合っていると思う。リボンタイどころか、葵はまるっきり女の子にしか見えないようなワンピースや髪飾りを身につけていることも多い。嫌ではないのかと葵に尋ねたことはあったものの、考えたこともないと言いたげに首を傾げられただけだった。
葵が変わっているのか。それとも京介が気にしすぎなのか。どちらが正解なのかは未だに分からない。
「葵にちゃんと“おめでとう”って言ってもらいなよ」
窓の外を流れる景色を眺めていると、隣に並ぶ兄がそう声を掛けてきた。
「頼めなかったら俺が葵に言ってあげるからさ」
目を合わすとにこりと笑ってそんなことを付け加えてくる。二つ年上の兄は、誰からの言葉が弟を一番喜ばせるのかも、弟が素直に頼めないであろうことも理解しているらしい。
年齢以上に大人びているというだけでなく、同じことを冬耶自身が望んでいたからでもあるだろう。
冬耶の誕生日はクリスマスの直前。冬休みに入ってからずっと隣家の様子を窺っていたほど、葵に会いたがっていたことを知っている。結局次に葵に会えたのは誕生日から随分日が経ったあとのことで、願いが叶わなかったことも。
「いってらっしゃい。がんばれよ」
返答に困る京介をよそに、冬耶は幼稚舎の門が近づいてきたことに気が付き、勝手に締めくくってしまった。朗らかな笑顔で手を振られ、京介も控えめに手を振り返して車を飛び降りた。
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