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あじさい(京介×葵)5

「こんにちは、京介くん。今日もお坊ちゃまと遊んでくださりありがとうございます」 穂高は京介相手にもきちんと目線を合わせて挨拶をしてくれる。対等に扱ってくれることも、子供扱いを嫌う京介には嬉しくてたまらないことだった。 でも同時に、穂高が来ると面白くないことも発生する。 「ほだか」 葵は両手を広げ、今すぐに抱き上げてほしいと甘えてみせる。穂高にだけ見せる表情と仕草を羨ましいと明確に感じてしまう。穂高の腕の中に収まって、葵は心底安心した顔をする。それを自分相手にも見せてほしい。 「穂高くん。今日ね、京介の誕生日なの」 「そうだったんですか、それはおめでとうございます」 「でね、夜誕生日会をしようと思うんだけど、葵ちゃん来られないかな?」 京介に向かって微笑み掛けてくれた穂高の表情が、紗耶香の誘いを受けてすぐに曇ってしまった。ダメなのだと返事を聞かなくても分かる。 「申し訳ありません。また今度、お祝いさせてください」 「今度っていつ?」 京介がすかさず約束を取り付けようとすると、穂高はますます困った顔になった。いつもそうだ。もっと葵と遊びたいと願っても、次がいつになるかは分からずじまいで歯痒い思いをさせられる。 紗耶香にたしなめられ、京介はそれ以上穂高を困らせることをやめた。ばいばいと手を振ると、穂高はあっという間に姿を消してしまった。こうして少し会話に付き合ってくれただけでもありがたいと思わなくてはならないほど、穂高はいつも忙しそうにしている。 「葵、自分の誕生日知らないんだって。なんかしてやりたいな」 「今日は自分の誕生日なのに。葵ちゃんのことばっか考えて」 率直な気持ちを口にすると、紗耶香はクスクス笑い出した。京介が怒ることを見越して堪えているようだけれど、むくれさせるには十分だ。 結局葵に“おめでとう”も言われず、パーティにも誘えなかった。プレゼントを貰えることが何よりも楽しみだったのに、帰宅するために車に乗り込んだ京介の気持ちはちっとも晴れなかった。 すぐ隣の家に住んでいるが、葵とはなかなか一緒に過ごせない。去年の七夕も、今年の初詣も、もっと葵と居たいという願いを掲げていたが、神様はちっとも叶えてくれていない。 夕飯の支度を始めた紗耶香や、床に寝そべりながら絵を描いている冬耶。彼らを横目に、京介は窓から見える隣家の様子を眺めた。 誰かが出入りする様子もなければ、こちらから確認できる限り窓に明かりが灯ってもいない。葵は今あの家のどこに居て、何をしているのだろう。また一人で絵本を読んでいるのか。それとも穂高に寄り添っているのか。 もしも葵が孤独を感じているならば、自分が傍に居てやりたい。その思いを葵に届けることすら難しい。

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