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翌朝(若葉×葵)※未来編

頬をふわふわと撫でる毛むくじゃらの存在。くすぐったさで目を覚ました葵は、甘えるような仕草に応えるため、眼前の毛玉に手を伸ばす。 額に指を這わせたり、顎の下をくすぐったりしてやると嬉しそうにごろごろと喉が鳴った。恋人が大事にする猫は、葵にとっても可愛い存在だ。 しばらくそうして猫と戯れながら意識を覚醒させた葵は、ベッドからゆっくりと体を起こした。葵を起こしにきたキャラメル色の猫とは別に、足元には黒と白の斑模様の猫が丸まっている。でも葵の隣はぽかりと空いたまま。 シーツが冷たくなっているから、もうとっくに起きているのだろう。一緒に起こしてくれたらいいのに、なんて寂しい気持ちになってしまう。 昨夜の名残で身体中がじんわりとした倦怠感に包まれている。でも嫌な感覚ではない。むしろ、心地良いとさえ思う。 恋人の香りが移ったシャツがここでの葵の部屋着だ。袖を通してベッドを降りれば、足元に猫たちが擦り寄ってきた。彼らも飼い主に会いたくなったのかもしれない。 その予想通り、廊下の先にあるリビングの扉を開けるなり、ソファにいる飼い主、若葉に向かって走り出してしまった。葵だけは、若葉が仕事の話をしていることに気付き、足を止める。 見聞きしたことをどこかに漏らすつもりもないし、そもそも知ろうとは思わない。知らないほうがいいのだと思う。だから電話のあいだ、また寝室に戻っていようかと踵を返そうとすれば、若葉はこちらを見ながら隣のスペースをぽんと叩いてきた。来いという合図だ。 葵はその誘い通り、先客の猫に混じって彼の傍に腰を下ろした。伸ばされた手が褒めるように葵の髪を撫で、そして首筋をくすぐってくる。こんな風に触れられると、まるで自分も彼の飼い猫のような、そんな気分にさせられる。 葵はなるべく会話内容に耳を傾けないために、テーブルの上に放置したままだった自分の携帯を手に取った。 昨日本当は泊まる予定などなかった。仕事を終えて帰宅した若葉とここで一緒に夕飯を食べるだけ。だからきちんと家に帰ると、兄にはそう約束して家を出たはずだった。でも結果はこれだ。 迎えに来てくれるという冬耶と電話で話している最中に若葉に邪魔をされ、そのまま寝室に連れ込まれたから何もフォローが出来ていなかった。案の定、冬耶からは葵や若葉を叱るような言葉と共に怒った表情をしたキャラクターのスタンプが送られてきていた。 「……はぁ」 帰宅すればきっとまた叱られる。気が重くなり、思わず溜め息が溢れてしまう。 そもそも若葉を選んだこと自体、兄はまだ納得していないのだ。葵が幸せならと、そうは言ってくれるものの、どうしても心配なのだと言う。葵にとっては十分に優しい恋人ではあるのだけれど、彼の仕事や今までの行いを考えれば無理はないとは思う。 「あぁ、わるいテツ」 その言葉で、電話の相手が彼の側近、徹だと分かる。話を耳に入れないようにしていた葵も知った名前で思わず、視線を若葉に向けてしまう。 目が合った若葉は、謝罪を口にしているというのにどこか楽しげに笑っていた。 「構って欲しそーにしてる猫が一匹いるから、またかけ直す」 「……ッ」 「あぁ、いや違う。一番でかいの。そう、それ、起きてきた。じゃあネ」 どう考えても葵のことを指している。鈍いと言われがちな葵だってそのぐらいは容易く察した。 「電話、邪魔してごめんなさい」 若葉の言い分には納得いかない部分はあるけれど、結果的に会話を中断させたことは事実。携帯電話が机に置かれたのを確認してから、葵はまず謝罪を口にした。やはり一旦引けば良かったと、そう思う。

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