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翌朝(若葉×葵)3

「他には?」 「他、ですか?」 「してほしーこと。俺はそういうの分かんないから、ちゃんと言って」 まさかこんな風に真正面から甘やかす台詞をくれるなんて思いもしなかった。葵の我儘は彼にとって迷惑でしかないと、そう考えていたからだ。でもそれは葵の杞憂らしい。 「若葉さんが起きる時は、僕も起こしてほしいです」 「別にいいけど、なんで?長く寝てたいもんじゃないの?」 若葉がいつも葵を寝室に置いていくことも、彼なりの気遣いだったらしい。 「会えた時ぐらいは、いっぱい一緒に居たいので」 「葵チャン、俺のこと大好きだネ」 「はい、大好き、です。すごく」 さすがに若葉を見つめながら打ち明けるのは恥ずかしくて。顔を隠すように彼に抱きつきながら、正直に認める。どれほど忠告をされたとて、それでも彼が好きだ。離れたくない。その想いは変わらなかった。 「なんならもっと会いたいとか思ってる?」 「……それは、はい。でも大丈夫です。若葉さんから連絡くるの、待ってます。迷惑にはなりたくないので」 「あー、なるほどネ。そっか、理解した」 葵の言葉を受けて、若葉はどこか納得したような口ぶりになった。不思議に思って見上げると、先ほどよりもさらに糖度の増した笑いが降ってきた。 「テツにさ、もっと葵に構えって言われんだよ。でも、お前はなんも言ってこないじゃん?だからまぁそんなもんかと思って放置してたけど。遠慮してたわけネ」 「遠慮というか」 「じゃ、我慢?まぁ何でもいーけど」 そう言いながら、若葉は葵の体をより深く抱え直してくる。鍛えられた彼の腕に包まれると、それだけで十分すぎるほど幸せだと感じてしまう。 「さっきも言ったけど、そういうのちゃんと言いな。全部叶えられるわけじゃないけど、融通はきくから。てことで……」 若葉は葵を抱えたまま立ち上がり、器用に携帯を操作し始めた。 「あぁ、悪いけど今日お前だけで動いで。葵チャンが離れたくないって駄々こねんのよ」 「な、ちょ、若葉さんやめてください、大丈夫です」 「違うって、本当に。しゃーねーな。葵、ほらテツに言ってやれ」 寝室に運び込まれそうになるのを察して自由な手足をばたつかせてみるが、若葉にはちっとも効かない。それどころか、楽しそうに携帯をこちらに向けてくる。 『葵さん、また若が無理強いしているのでしたら止めに伺いますが?』 「いえ、その、無理強いというか。もっと会いたいみたいなことを言ってしまって、だから」 『そうですか。では、今日はどうぞ仲良くお過ごしください』 言い訳を重ねている途中で、電話越しの徹は笑いながら一方的に通話を終えてしまった。 「仲良く、だって。何する?葵チャン」 尋ねながらも葵の体をベッドに落とし、その上に覆いかぶさってくる若葉の目は既にぎらついた色をしている。だから葵はその体を押し返しながら、ずっと考えていたことをねだってみる。 「外でデートしたいです」 若葉とはこうして家で過ごすことしかしていない。若葉の立場上、共に出掛けることが難しいと認識していたのだけれど、もしかしたらそれも葵が穿ち過ぎだったのかもしれない。今の話の流れならば、言いやすい。 「りょーかい。また今度ネ」 「今度?」 「そ。この状態でお預け食らわす気?」 「……でもっ」 降ってきたキスとシャツの裾から侵入してきた手のせいで、それ以上言葉を続けることは出来なかった。サラリとした赤髪が葵の肌を這う。 「大好きです。若葉さん」 葵が想いを告げれば、彼はこちらを向いて唇を動かす。声にはならないけれど、同じ気持ちだとは十分に伝わった。 意地悪で、強引で、でも葵にはとびきり優しい恋人。これからもっと好きになる。その想いを乗せて、今度は葵からキスを贈った。

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