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かき氷(冬耶・京介×葵)1

眩しいぐらいの日差しが差し込む庭先には騒がしい程セミの声が鳴り響いている。夏が苦手という京介はそれをうるさいと怒るけれど、葵はこの虫の声が嫌いではなかった。 京介がすぐに室内の空調の温度を下げてしまうから、実家に滞在する間、寒がりな葵はたまにこうして庭先に出ては体を温めるのが習慣になっていた。 「……あったかい」 庭先に広げたビニールプールに、縁側に腰掛けたまま脚を浸らせれば、朝には冷たかったはずの水はすっかり温くなっていた。 つま先でぱしゃりと水を蹴り上げれば、飛沫が上がりきらきらと煌めく。泳ぐことは出来ないし、水自体も以前は苦手だったけれど、今はこうして一人戯れることが出来るようになった。 怖がらないようにと、常に浴槽にもプールにも、西名家の両親が色とりどりのおもちゃを浮かべてくれたおかげだ。そしてもう大きくなったというのに、未だにプールには昔と変わらずおもちゃがぷかぷかと漂っている。 家族との思い出を振り返りながら隣家を見やれば、草木が鬱蒼と生い茂っているせいか、そこは同じ日差しを浴びているはずなのにどこか仄暗く、陰鬱な空気が漂っている。 太陽のような西名家の人達は時折葵には明るすぎて、たまに不安になる。ここに居てもいいのだろうか。自分の居場所はあちらなのではないか。そんな不安を口にすればきっと彼等を悲しませてしまうことは分かっている。だからくすぶる感情はそっと押し殺すために、隣家から視線を外し揺らぐ水面をただジッと見つめることにした。 どれだけそうしていただろう。 ジリジリと肌が火照る感覚がしてきた頃、背後から不意に声が掛けられた。 「あーちゃん、日に焼けるよ」 自分をそう呼ぶのは世界でただ一人。大好きな兄、冬耶しかいない。すぐに振り返れば、冬耶は口調とは裏腹ににっこりと微笑んで和室から顔を覗かせていた。その手には葵の帽子が乗せられている。 「ちゃんと日焼け止め塗ったよ。長袖も着てるし」 「でも帽子は被んなきゃダメ。目、ちょっと赤くなってる」 そう言って冬耶は葵に帽子をしっかりと被せながら、目元を指先でくすぐってきた。自分では実感が湧かないが冬耶が言うのならば本当にダメージを受けているのだろう。 「さっきガレージ片付けてたらさ、こんなの出てきたんだけど」 冬耶が葵の横に座りながら見せてきたのは長方形の白い箱。何かは分からなくて冬耶がその箱を開く動作を見つめていれば、中からは見覚えのある機械が取り出された。 「かき氷だ!」 「そう、前作ったの覚えてる?またやらない?」 冬耶からの誘いは魅力的だった。 幼い頃初めて西名家に連れて行かれた夏祭りで食べさせてもらったかき氷。色とりどりのシロップがふわふわの氷を染めていく様が魔法みたいで、一瞬で好きになってしまった。 家でもそれが作れるようにと陽平が買ってくれた機械は、少しだけ扱いが複雑だったせいでいつのまにかガレージに隠れてしまったけれど、それを冬耶が見つけ出してくれたらしい。

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