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かき氷(冬耶・京介×葵)2

「氷はいくらでもあるけど、シロップ買いに行かないとな。一緒に行こっか」 「うん!京ちゃんも来てくれるかな?」 「あーちゃんが誘ったらついてくるよ。声掛けておいで」 暑いから外に出たくない。そう言われそうなものだが、冬耶は京介の元へと後押ししてくれた。 プールからびしょ濡れの脚を引き上げればすぐに冬耶がタオルで拭ってくれる。兄はどこまでも準備がいい。 玄関で待っているという冬耶の見送りを受けて、葵はさっきまで居た京介の部屋へと階段を駆け上がった。 一応はノックをしてみるが、足音で葵が戻ってきたことは分かっているらしい。当然のように返事が戻ってこないのだから、葵もすぐに扉を開けて中を覗き見た。 出て行った時と同じく、京介はベッドに背を預け、バイク雑誌に目を通し続けている。欲しいバイクがあるという京介はせっかくの夏休みをバイトで埋め尽くしていた。ちっとも共に過ごせない。 だから貴重な休みの日は、例え近所のスーパーに出掛けるだけでも京介の傍に居たかった。 「あっつ、お前また外居たの」 ベッドに近づけば京介はようやく顔を上げ、葵に手を伸ばしてくれる。だが葵のパーカーに触れて熱を感じ取ったのだろう。途端に嫌な顔になってしまった。 「京ちゃん、シロップ買いに行こ」 「……はぁ?」 正直に目的を言えば、想像通り京介は更に顔をしかめる。 「お兄ちゃんとかき氷作るの。でもシロップ無いから買いに行こ」 「じゃあ兄貴と行ってくりゃいいじゃねぇか」 「京ちゃんも一緒がいい」 西名家で過ごすうちに随分と我儘になってしまったと葵は思う。でも許される限り、冬耶と京介と、二人とずっと一緒に居たい。 「京ちゃんの好きなシロップ買っていいから」 渋る京介にそう言えば、ようやく京介は雑誌を閉じてくれた。やはり京介もかき氷が好きなのか。幼馴染の可愛い一面に、思わず頬が緩んでしまったが、それを見咎められてすぐさま頬を拗ねられる。 「それに釣られたわけじゃねぇよ馬鹿」 「じゃあなんで?」 「びーびー泣かれるとうるさいから。買ってきたほうが早い」 意地悪な物言いは京介らしい。 「……泣かないよ」 「嘘つけ。すぐ泣くくせに」 上半身には何も身に着けていなかった京介は出掛けるためにTシャツを被りながら、葵の泣き虫を笑ってきた。昔ほどではないけれど、確かに葵の涙腺は緩い。言い返す声もどうしても弱くなってしまう。 「いいよ、お前が泣いたらすぐに泣き止ませてやっから」 意地悪を言うくせにこうして優しく頭を撫でてくれるのも京介だ。京介は葵に振り回されていると言うけれど、葵は逆だと思ってしまう。こうしていつも感情を揺さぶってくるのは京介のほうだ。

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