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かき氷(冬耶・京介×葵)3
京介と共に階下へと降りれば、兄が二人を待ち構えていた。
「ほら、やっぱりあーちゃんが誘ったら来るんだよなぁ」
「……るせぇ」
冬耶の言葉に京介からの蹴りが飛ぶが、冬耶はそれをあっさりと避けてけらけらと笑っている。でも京介も本気で怒っているわけではない。昔から彼等のコミュニケーションは少々荒っぽいのだ。
最初はこうしたやりとりにドキドキさせられていた葵も、いつのまにか安心して見守れるようになった。
「あーちゃん、行くよ」
「早くしろ、葵」
もたもたとスニーカーの紐を結んでいる葵に、二人揃って手を伸ばしてくれる。この手を取って真ん中で歩くのが何よりも好きだ。
三人で歩く時は純粋な横並びではない。
兄らしく先頭を引っ張ってくれる冬耶と、葵を隠すように前に立つ京介の間では、葵は少しだけ後ろに下がって歩くことになる。
でも二人の横顔と大きな背中が同時に見られるなんて、これ以上安心出来ることはないかもしれない。
目的のスーパーに着いて目当てのシロップを手に入れても、このまま家への帰り道が長く伸びてしまえばいい、そう思えるほど二人との時間は心地の良いものだ。
「あーちゃん、わた雲、美味しそうだね」
冬耶の声につられて顔を上げれば、青い空に柔らかな雲が浮いている。青と白のコントラストが眩しいほど鮮やかだ。
「ほんとだ、甘そう」
名前の通り綿菓子のような雲を見れば、そんな感想が口をついて出てしまう。
「綿あめと、かき氷と……あとはヨーヨーがあったらお祭りになるね」
「ハハ、あーちゃんは相変わらず可愛いこと言うなぁ」
二人と行ったお祭りの光景を思い出せば、冬耶が声を上げて笑った。でも決して葵の子供っぽい発言を馬鹿にするようなニュアンスはない。ただ優しく包み込むような笑顔で葵を振り返ってくれる。
「今度やるってよ、駅前で」
普段は冬耶と葵の会話にあまり口を挟まない京介もこの話題には乗ってきた。
「お祭り?」
「そ、行くか?」
京介の問いにはすぐに首を縦に振った。なんだかんだ言いつつ、京介はいつでも葵の好きな場所に連れて行ってくれる。それについ甘えがちだが、無理やり付き合わせるのはいけないことだと分かっている。
「京ちゃんも行きたい?楽しいって思う?」
不安を言葉にして京介を見上げれば、一瞬京介は驚いたような顔をして、そして口元をフッと歪ませて笑う。
「お前がガキみたいにはしゃいでんの見てるのは楽しいよ」
「……またいじわる言う」
どうしても素直に楽しいとか面白い、なんて言葉は言ってくれない。唯一彼に不満があるとすればこういう所だ。
「ったくもう、どうしてお前は一緒ならどこでも楽しいとか言えないもんかね」
「兄貴が言い過ぎなんだよ、だからいつまで経っても甘えたなんだろ」
「その甘えん坊が可愛いとか思ってるくせに」
ようやく家に着いたというのに今度は兄弟で応酬が始まってしまった。でもどうやら冬耶のほうが優勢らしい。
「ひねくれてばっかだと愛想尽かされちゃうぞ」
冬耶の言葉で京介が悔しそうに押し黙ってしまい、呆気なく勝負がついてしまった。
自分のせいだと分かっているから少し気になって京介のシャツを引っ張ってみるが、彼からは冬耶が靴を脱いでいる隙に素早く耳を噛まれてしまう。
「……いッ」
「お前が嫌って言っても逃さないからな」
「なんの話?」
咎めるような言動の理由が分からなくて聞き返したのだが、京介も冬耶に続いて玄関を上がってしまった。理不尽だと思うが、早速かき氷作りの準備が始められれば、葵はそれ以上京介の真意を問うことが出来なかった。
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