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かき氷(冬耶・京介×葵)4
かき氷の機械と共に机の上に並べられたのは、買ってきたばかりのシロップの瓶。どの味にするか迷って、結局青と赤と緑。三色並ぶことになってしまった。
冬耶が率先して氷を削ってくれるのを待つ間、そのガラスを眺めてふと気付く。
「ねぇねぇ京ちゃん」
「なに」
葵と京介と冬耶。三人の座る位置にそれぞれ瓶を並べて、もう一度京介のほうを見やるがうまく伝わらないらしい。不可思議な行動を怪訝な顔で見つめ返されてしまう。
「これが京ちゃん。これがお兄ちゃん。で……」
「あぁ、そういうことな」
もう一度、今度は説明を加えながら瓶を突けば、京介はようやく葵の言いたいことを汲み取ってくれた。
今日三人が身に纏っていた服がシロップと同じ色だったのだ。
「ホントだ。じゃあお兄ちゃんはまずメロンから食べよっと」
冬耶も葵の発見を楽しそうに受け入れて、Tシャツと同じ色の味を選んでくれる。
昔は感じたこと、思ったことを素直に口にするのも苦手だったけれど、こうして冬耶が全て包み込んで肯定してくれるから、安心して言葉を取り戻すことが出来た。
「あーちゃんは?ハワイアンブルーにする?」
「……うーん」
冬耶に提案されて頷きかけたが、葵は自身の着る空色のシャツとは違い、まずはイチゴのシロップのものが食べたかったのだ。でも言い出した手前なんとなく主張しにくい。
「好きなもん食えよ、馬鹿」
迷っている葵の頭を小突いてきたのは京介だった。そして目の前にトンと赤い瓶が置かれる。葵が何を求めていたかお見通しだったらしい。
「あーちゃんはやっぱ食べ物だと赤いもの好きだよな。なんでだろうなぁ」
「え、そう?」
「そうだよ。りんご、イチゴ、さくらんぼ。あぁ、あとスイカも好きだね、あーちゃんは」
指摘されれば確かにと思わされる。
京介が葵の代わりに青のシロップのかかったかき氷を手にし、三人全員の準備が整った。冷たいものを食べるから、そう言って冬耶があの縁側で食べることを提案してくる。
「なんでわざわざ暑いとこ行かなきゃなんねぇんだよ」
京介はそう言うが、渋々一緒に着いてきてくれた。
縁側に並び、三人でプールに脚を突っ込みながらかき氷を食べる。特別なことではないかもしれないが、葵にとっては随分と贅沢な夏の過ごし方だ。
イチゴ味の氷を頬張りながら、もう一度、葵は庭の向こう側、を見やった。
大好きな二人に囲まれて見る隣家は、さっき一人で眺めていたときとは違う場所に見える。怖くもない。寂しくもない。あの場所で育ったからこそ、こうして今二人と共に暮らすことが出来た。そうも思えてくる。
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