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境界線がなくなった日

遙side 「悪いココ…今日は帰るの遅くなる。夕飯も作っといたから、温めて食べといて」 朝食を食べ、急いで上着を着ながらそう告げる。 昨日はココと夜遅くまでレンタルした映画を見ていたせいで、遅刻ぎりぎりだ。 「う、うん…」 俺の話を聞いた途端シュンとして、明らかに落ち込んでいるのだとわかる。 『俺がいないとダメ』みたいなのを勝手に思い込んで自意識過剰になってしまうのも、ココがこういう所を見せてくるせいだ。 「いってらっしゃい…」 「おう、いってきます。ほんとごめんな?できるだけ早く戻ってくっから!」 切なげな声音が俺の心をきゅっと締め付けた。 いつもより優しく撫で、後ろ髪引かれる思いで家を出た。 『朝夕は毎日一緒に食べる』っていう約束してたのに、それを決めた俺が真っ先に破るとか―― 自分でも最悪だと思う。 あぁ、早く帰って来たいなぁ… そう思うのもココと仲良くなってからだった。 以前までは、誰もいない家と明るい大学との差が激しすぎて、精神的に疲れていた。 たくさん人のいる賑やかなところから、急に何もなくなって物音一つしない所に身を移すと、とんでもなく寂しくて孤独を覚えるのだ。 そのせいか、バカの一つ覚えのように酒を飲み、夜の街へと繰り出して気を紛らわしていたのだった。 なのに今では家に帰るのが何よりも先決で、出来るだけ誘いは断っていた。 人って変わるもんなんだな。 ココがいるおかげで毎日が楽しいとさえ思う。 今日は強制的に大輝と大我(主に大我)に飲みに連れて行かされることになっている。 最近付き合いが悪いと周りに言われ、このまま放っておくとプライベートを詮索されかねない。 そう考え、心苦しいがココに辛抱してもらうことにした。 「はぁ…めんどくせーなぁ…」 今日は目覚めも悪くとても憂鬱だった。

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