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あのね

遙side ココのことが心配で、今日の10時から入っていたバイトを休むことにした。 大学はもう休みに入っていてちょうどよかったが、肝心の昼飯時と夕飯時にひとりとなると正直大変だろう。 もしかすると辛くてベッドから動くことが出来ないかもしれない。 お腹を空かせたまま放っておくのはありえない。 食欲がないにしても、軽く食べられるようにとサンドウィッチは作った。 だが、食べる本人はまだ夢の中である。 そろそろ起こしてやらないと、夜寝られなくなりそうだから起こしに行った。 「ココ、起きて。もう10時だ」 揺すると、すぐ反応を見せ目を薄く開いた。 「………」 「具合はどうだ。起きれるか?」 「は、るぅ?」 目を擦りながら、大きなあくびをひとつした。 辺りを見回し、焦点が合ったのか、俺を見つけるとふにゃりと顔を綻ばせた。 「お、はよ……けほっ、けほっ」 「はははッ、盛大に声掠れてるな。昨日は叫んだもんな」 俺の蒸し返すような言い方のせいで、昨日のことを思い出したのだろう、布団を鼻の頭までぐいっと引っ張って肩を竦めた。 「昨日のこと、思い出して恥ずかしくなったか? それより喉痛くないか?昨日のオレンジジュース余ってるんだけど…」 いる、と短く呟くと、体を起こそうとした。 「いたた…っ!腰痛いよぉ」 腰の痛みを訴えて、体を起こすことが出来なかった。 「あぁ、そっか。痛い思いさせてすまなかったな。昨日みたいに口移しでなら飲むか?」 「ん…」 「あと、サンドウィッチ作ったんだけど…食べれそうか?」 「うん…それも食べさせて?」 頬をピンク色にさせてそう言うもんだから、そんなの断れるわけがない。 「ったく、甘えるのはほんと、上手いんだよな」 素直にいいよと言えないのは少し照れくさかったからだ。 「ん…んむ…ぅん、っく」 「どうだ、美味いか?」 「うん…美味しい。オレも食べさせたい…」 「ココも口移しな?」 そうやって長い時間をかけて食事を楽しんだ。 オレンジジュースもすぐ空になった。 口移しでは飽き足らず、唇が腫れぼったくなるまでキスもした。 お互いの口の中はオレンジジュースのおかげで、さっぱりと甘い柑橘系の味だった。 「よかった。ココが二日酔いしてなくて」 「あのね、ハル…びくびくって怖がっててごめんね?」 「なんだ今更…そういうのは、警戒心の強いネコの本能なんだろ?」 「んーん…、オレ、ハルに触られるとすごく敏感に反応しちゃってかんじちゃうから… で、でもこれからハルといっぱい触り合いっことかするから、慣れるんじゃないかなぁと思うんだぁ。 だ、だから…いっぱいぎゅーっとか、ちゅーってしてね?」 思い切って言えたとばかりに、嬉しそうな顔をする。 あまりにも可愛い発言にため息が出て、少し返事に困ってしまった。 これは神から自制心を試されているのだろうか、それとも褒美なのか…。 唐突な告白に頭が混乱する。 「なぁ…やっぱ酔ってる?」 やはり昨日の続きとしか考えられない。 そう決めつけておかないと、何か言い訳を作っておかないと襲ってしまいそうだ。 「んーんっ、酔ってない。でもね、すごく頭が痛いよ。それにちょっとだけ熱い」 「……よかった」 その症状の心当たりがあったので、心底安堵する。 「それ二日酔いだ」 今晩は、しじみの味噌汁と梅干しを出すと密かに決めた。

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