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――次の日。
「おはよう、叶」
「……おはよ」
叶が優しく微笑んだ。
叶の笑っている顔を見たのは、かなり久しぶりな気がする。
叶の顔は相変わらず醜く焼け爛れ、歪んでいたけれど、それでも俺の目には彼のこの笑顔が美しく映った。
顔が綺麗だとか美形だとかそんな表面上の物ではない美しさ。
それを今の叶には感じた。
「……行こうか」
「今日は…………学校、行かなくていいや」
「え?」
「なんかさ、犯人を見つけるとか、どうでもよくなっちゃった」
「…………そう、なんだ」
「うん。お前が側に居てくれれば……なんかもう、それでいいや」
「……そっか。じゃあ、俺も学校休むよ。叶と一緒に居る」
「バカ、今年受験だぞ?学校行けよ。俺は一人で、大丈夫だからさ……」
「叶と一緒に居たいんだよ」
「幹久…………ありがとう」
「…………うん」
その日は学校をサボって、一日中叶の部屋で過ごした。
叶の部屋で、テレビゲームをしたりトランプで遊んで過ごした。
久しぶりに思いっきり遊んで、はしゃいで、笑った気がする。
最近は専ら、叶とする事と言えばセックスで、こんな風に普通に遊ぶ事はほとんどなかった。
なんだか子供の頃に戻ったみたいだ。
「ねえ、次はアレやろ?」
「アレ?」
「人生ゲーム」
「……懐かしいな。昔よく、叶やおばさん達とやったよな」
「うん、久しぶりにやろ」
「えー、でも二人じゃなぁ……」
「いいじゃん、やろーよ」
「……仕方ないな」
「やったぁ!」
「…………あはは」
はしゃぐ叶が、愛おしかった。
楽しそうにしている叶を見ていると、幸せな気持ちになる。
温かくて、優しい気持ちになれる。
「…………」
――叶は、俺が硫酸事件の犯人だなんて微塵も思ってないんだ。
俺の事を心の底から信用してるんだ。
これっぽっちも疑ってないんだ。
あの時の通り魔の正体が俺だって知ったら、叶はどう思うんだろう。
本当の事を言ったら、どうなるんだろう。
どうなってしまうんだろう。
――…………
――……
「あの、さ……叶……」
「なに?」
叶は俺を信じている。
心の底から本気で信用している。
そんな叶に俺の裏切りを告げてみたいと思った。
その時、叶がどうなるのか、どうするのか……
どんな反応をするのか、どんな行動に出るのか……
それに純粋に興味があった。
「あのさ……」
「だから、なに?」
「…………」
心臓が破裂しそうな程バクバクしている。
額に脂汗が滲むのが分かる。
「…………俺、なんだ」
「え?なにが?」
「叶に……………………硫酸をかけた、犯人」
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