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第1―10話

翌日の午後三時過ぎ、木佐達のLINEグループに吉野から、 『昨夜、トリが家に来たけど、バレてはいません』 の後に 『事情があって全身筋肉痛で身体が動かないので、今日の京極さんの教室はお休みします』 とあって、木佐と小野寺は思わず顔を見合わせた。 小野寺は「吉野さん、身体でも鍛えてるんですかね~」などと呑気に言っているが、木佐は一瞬で吉野の身の上に起こったことを理解した。 昨日の小野寺の話に感激した羽鳥は、感激もそのままに、吉野に激情をぶつけたのだ。 羽鳥は朝から怖いほど超機嫌が良い。 いつものクールなポーカーフェイスはどこへやら、絶えず微笑みを浮かべていて女性社員の目は羽鳥に釘付けだ。 昼食に合わせて一之瀬絵梨佳に高野と共に呼び出されて編集部に戻って来てからも、普段なら『なぜ担当でもない俺が』『真っ昼間に何時間もメシ食いながら打ち合わせなんて時間の無駄だ』オーラを振り撒いているくせに、今日は一之瀬絵梨佳のことなど全く!無かったかのようにご機嫌に仕事を進めている。 木佐が羽鳥と一緒に帰社して来た高野にこっそり聞いたところ、「羽鳥の絵梨佳さまへのエスコートは完璧で、絵梨佳さまは目をハートにして『羽鳥さん素敵よ』を100回は繰り返してたな。俺?空気」という返事だった。 羽鳥…昨夜は千秋ちゃんにやりたい放題したなー…。 しかも動けなくなるまでって何だよ!? そ、そりゃあ俺も昨夜は食事の後、雪名とセックスしたけど、こーして普通に仕事が出来る範囲だわ!! 二十歳そこそこの雪名が翌日に合わせてコントロール出来て、三十路近いお前が好き放題って問題あるだろ!! 「木佐、どうした? 俺の顔に何かついてるか?」 思わず羽鳥を見つめて吉野に同情していた木佐は、突然羽鳥に訊かれ、ギクッと青くなる。 「い、いやその…」 木佐がモゴモゴ言っていると、羽鳥が木佐のデスクにやって来て、木佐の肩を抱くと、低い美声で囁く。 「バレンタインデーまで吉野をよろしく頼むな」 木佐は小学生のように「ハイッ!」と返事をした。 だがここで予想外のことが起きた。 小野寺が吉野は体調が悪くて今日の教室には出席出来ませんと京極に電話をしたところ、京極は大層心配して吉野の具合を詳しく聞いた。 それが筋肉痛だと知ると、京極は吉野の家にお邪魔していいか確認して欲しいと言い出した。 「バレンタインデーまで余裕があるとは言えませんし、やれることはやりましょう。 用意一切は僕がしますから」 小野寺は京極のやさしさに感激して、直ぐに吉野に連絡を取った。 吉野も別に構わないと答えた。 羽鳥は昨夜吉野に散々好き勝手したのだから、今夜は来ないだろう。 すると吉野が行かないなら自分も行かないと言っていた柳瀬も、それなら参加すると言い出した。 そうして20時に吉野のマンションに集合することになったのだった。 木佐と小野寺が吉野のマンションに20時丁度に到着すると、なぜか京極と柳瀬は既にマンションにいて、お弁当を食べ終えたところらしかった。 「少し時間が空いたので早めに来たんですよ。 これ、お二人のお弁当です。 井坂に紹介してもらった料亭のお弁当ですから、味は保障します」 京極がにっこり笑う。 余りに整った美しい笑顔に、木佐と小野寺は自然と赤面してしまう。 「本当にすっごく美味しかったから、木佐さんも小野寺さんも食べて!」 吉野がニコニコ笑って言うと、柳瀬が「どうぞ」と言ってダイニングテーブルに弁当を二つとお茶を並べてくれる。 「じゃあ遠慮なく! 頂きま~す」 木佐と小野寺がテーブルに着くと、京極が立ち上がる。 「じゃあ千秋ちゃん、行きましょうか」 「へ?何処に行くんですか?」 木佐が京極を見上げる。 京極がフッと微笑む。 「千秋ちゃんが筋肉痛が酷いというので、マッサージしてあげようと思って。 マッサージオイルを持参して来たんです。 仕事柄、僕も筋肉痛になることがあるので。 でもオイルだと部屋が汚れてしまうので、バスルームで」 「そうなんだ! 二人が食べてる間にマッサージしてもらっちゃうから!」 吉野は嬉しそうに無邪気に笑っているが、木佐と小野寺の胸に不安が過ぎる。 バスルームでオイルマッサージ…? それは当然裸なのでは!? すると青ざめる木佐と小野寺の胸の内を読んだように柳瀬が言った。 「大丈夫。エステで履くパンツも用意して来てくれたし、俺も京極さんの手伝いで一緒にやるから」 木佐と小野寺はホッと息を吐く。 それなら安心だ。 京極がサッと吉野を抱き上げる。 「京極さん?」 吉野が顔を赤くして京極を見上げる。 「歩くのも辛いんでしょう? 気にしないで」 「あ…ありがとうございます…」 京極と吉野の間に流れる甘い空気。 木佐と小野寺がまた青ざめていると、柳瀬が二人に小さくオッケーマークをして見せた。 そうだ!柳瀬くんがいるから大丈夫だ! 木佐が柳瀬に向かって頷くと、小野寺も頷いた。 そうして京極と吉野と柳瀬の三人がバスルームに消える。 「それにしても京極さん、油断も隙もありませんね」 小野寺が弁当を食べながら言う。 「だよね~!」 木佐もウンウンと頷く。 「でも大丈夫だよ! なんたって千秋ちゃんが大好きな柳瀬くんが見張りに……あーっ!!」 「木佐さん?」 木佐は突然大声を上げると、小野寺を見つめる。 「京極さんは千秋ちゃんが好きで、柳瀬くんも千秋ちゃんが好きで、その二人にマッサージされる千秋ちゃん…危険じゃない!?」 「そ、そう言われれば…!! 木佐さん、どうしましょう!?」 オロオロとする二人に、バスルームからキャッキャッと楽しそうな声が聞こえてくる。 その時、インターフォンが鳴った。 柳瀬が脱衣場から顔を出し、「悪いけど出て貰えますかー?」と言う。 仕方無く木佐と小野寺がモニターを見ると。 「俺だ。合鍵を忘れた。開けろ」 と言う羽鳥と、なぜか高野が並んで立っていた。

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