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第1―21話

そして木佐と小野寺は各々の電話が終わると、膝を突き合わせた。 まず小野寺が口を開く。 「高野さんはあの日、突然井坂さんに社長室に来るように言われたそうです。 そうしたら井坂さんが『吉川千春先生が羽鳥抜きで京極遼一と取材に行きたいと言っている。付き添いは柳瀬くんが第一希望で、柳瀬くんがどうしても無理なら木佐か七光りがいいんだと。吉川先生の予定が丸一日空いてる日を早急に知らせろ。それから取材の内容は、吉川先生が誰にも知られたく無いと言っているので答えられん。スケジュールも朝比奈に立てさせる。以上だ』とだけ言われたらしいです」 「え…」 木佐は目を見開いた。 「京極さんの希望じゃなくて、千秋ちゃんの希望なの…? それに千秋ちゃんが、取材の内容を知られたく無いって言ってるんだ…?」 「そうなんですよ…」 小野寺も怪訝な顔をしている。 それでも気を取り直したように、小野寺が期待に満ちた目で木佐を見る。 「それで横澤さんはどうでしたか?」 「うーん…それが全然乗り気じゃないんだよね…」 木佐が残念そうに肩を落とす。 「やっぱり羽鳥はあの取材の同行を外された日、ヤケ酒飲んで、どっかのおっさん達と喧嘩になって暴行されてた。 そこを偶然通りかかった桐嶋さんと横澤さんが助けた。 それで羽鳥は翌日、桐嶋さんと横澤さんの前で本心を話したんだって。 それを聞いた横澤さんにしたら、羽鳥の為とはいえ、迂闊なことは出来ないって言われた。 また傷ついたら、今度こそ羽鳥のやつ、どうなるか分かんないって…。 それに大の男が決心したことを、中途半端に引っ掻き回すような真似すんなって怒られた…」 「じゃあ桐嶋さんには…」 「横澤さんからは話せないし、お前達からも話すなって。 羽鳥が納得してる以上、桐嶋さんの答えも自分と同じだろうって。 それに一応千秋ちゃんは仕事で取材に行ってる訳で、井坂さんが吉川千春先生から取材の相談を受けて、それを実行しただけで、桐嶋さんが今更井坂さんに違う編集部の取材に口出しするのは、いくら井坂さんと桐嶋さんの仲でも、不味いんじゃないか、だって。 エメ編じゃない桐嶋さんが出しゃばるのは、桐嶋さんの為にもならないってさ」 そう木佐は、小野寺に高野が井坂に吉野の取材の社長命令を下された内容を詳しく聞いてもらい、今回の取材のヒントがないか探ろうとしたのだ。 そして自分は横澤を通して、桐嶋に頼み込んで井坂から吉野の取材の件を詳しく聞いてもらい、出来れば取材の目的と京極の協力者も聞き出してもらう作戦だった。 それに出来ればその協力者に、羽鳥に「吉野と京極はバレンタインデーの師弟関係以外何も無い」と明言してもらう。 だけど。 「でも…もう終わったな…」 「木佐さん?」 「高野さんが井坂さんに言われたことに答えが全部出てるじゃん。 あの取材は京極さんの発案じゃなくて千秋ちゃんの希望で、千秋ちゃんが取材の内容を誰にも知られたく無いって言ってる。 でもその取材に羽鳥は抜きで、京極さんには同行して欲しいんだよ? これってもうさ…千秋ちゃんの心が相当京極さんに傾いてるってことだよね…。 それに井坂さんが朝比奈さんにスケジュールを立てさせるってことは、やっぱり京極さんの協力者は井坂さんで…。 羽鳥と千秋ちゃんの関係に気付いている井坂さんがそこまで京極さんに肩入れしてるんだから、井坂さんは京極さんの絶対的味方。 京極さんが不利になるようなことを言う筈無いよ…」 「…そうですよね」 木佐は立ち上がると、小野寺にミルクティーを淹れてやった。 二人黙って、ミルクティーを飲む。 木佐が自嘲気味に言う。 「俺さ、大きな勘違いしてた。 千秋ちゃんが京極さんの教室で不器用なりに一生懸命練習をしている姿を見て、羽鳥を好きなんだなって思ってた。 でも違った。 千秋ちゃんは京極さんの為に頑張ってたんだよ…」 「そっかあ…」 小野寺の大きな瞳が潤む。 「京極さんの教室で大変なこともいっぱいあったけど、4人で励ましあって、本当に楽しかったですよね」 木佐がカップをソーサーにガチャンと音を立てて置く。 「き、木佐さん…?」 「律っちゃん!今、何て言った!?」 「え…えと…。 京極さんの教室で大変なこともいっぱいあったけど、4人で励ましあって、本当に楽しかった…ですか?」 「それ!! そう!俺達は4人で京極さんの教室に通ってた! その中に、京極さんと千秋ちゃんの最初の出会いから取材内容まで全部知ってる人がいるじゃん!!」 「あーーー!!」 小野寺が頬を紅潮させて木佐を見る。 木佐も頬を赤くして小野寺を見る。 そして二人は同時に言った。 「柳瀬くん!!」

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