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第11話 交互に訪れるもの

「じゃ、行ってくる。今夜は遅くなるから待ってなくていいからな」 「うん、分かった。気を付けて」 仕事に出掛ける斗真を玄関で見送ると、早速洗濯物だ何だと忙しく動き回る。 あれから一週間経ち、この家での生活にも慣れてきた。 それなりに稼いでいるので広い屋敷ではあるが、過度な贅沢をしない二人らしい家は、庶民の自分でも落ち着いて過ごせる内装だった。 仕事が本当に忙しいらしい斗真は、朝から晩まで働き通しは当たり前で、二日ほど帰れなかった日もあった。 しかし、新しい生活にあれこれと考えながらの一週間は、あっという間だったこともあり一人が寂しいと思うことは無かった。 ただ広い部屋が幾つもあるので、怖がりの祐にしてみれば、そういう心細さはあった。 無駄に広い家に長い廊下。 何だかんだで斗真は稼いでいるのだから、これでも家としては小ぢんまりしているのだろう。 ついつい家の中でも明るいリビングの窓際に居る事が多くなる。 始めはつけていたテレビも英語で何を言ってるかちんぷんかんぷんだし、面白さが分からず今は消していた。 斗真の家では日本の国営放送も観られるが、ニュースを観たりする以外は特に惹かれる番組もなく。 あまりにも日本の家と大きさが違う事もあって、心細く思ったり怖い時もある。 一応、防犯カメラがあり留守中の心配をして斗真が ガードマンを個人的に雇っているらしいので、二人ほどが門扉前に立っている。 そしてこのちょっとしたセレブタウン自体に、ガードマンが常駐警備しているので、そういう怖さは無いのだが…。 「もしもし、お母さん?うん。元気だよ、慣れてきたしキッチンも広くて使い勝手いいし楽しいよ」 そうして少し寂しくなったら家族に電話をしたり、庭に来る小鳥の様子を眺めたり。 家事の忙しさと、ちょっとした寂しさが交互に訪れていた。 「こういうの里ごころって言うのかな…?」 祐は空を流れる雲を眺めながら呟いた。

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