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第19話 黒い影
音は直ぐそこまで来ていたのだ。
土を硬いもので力いっぱい叩きつける様な荒々しい音と、体の奥まで揺さぶる地響きに、祐の体が緊張に硬直する。
ドンッ
同時に目の前の草が爆音と共に風に靡き、一瞬だけ黒い影が目に映った。
それも直ぐに草で覆い隠される。
祐の髪の毛は乱れたものの、サラリと元に戻った。
「…」
そ…と、顔を出す。
恐る恐る顔を覗かせて見てみると、黒い大きな生き物に跨がる黒いマントを翻す人の後ろ姿だけが遠くに確認出来た。
が、それも暫くすると大きな音と共に消えてしまった。
音の正体は今の生き物の足音だった様だ。
馬…にしては何か違う様子だった。
動物は好きだが、見たことの無い後ろ姿。
本当に一瞬だったので驚いていたのと、乗っていた人物へ視線が行ってしまい確認しきれなかった。
再び森は静かになり、静寂と小鳥の囀ずりだけが聴こえる。
「あっ!」
そこで祐は、我に返った。
音の正体は分かったものの、今の人物に助けを求めていれば、このおかしな状況も少しは何とか出来たのではないだろうか?
とはいえ怪しい人だと困る。
さっきの人物を追えば、何処かの町へ出るかもしれない。
一本の舗装されていない道が真っ直ぐに延びている。
左右をやはり巨木が立ち並んでいて、何処まで続いているのか…。
まるで永遠に続いているかの様だった。
今更追い掛けるにしても、もう先程の人物は居ないに違いない。
「…はぁっ。…あー、もうっ!」
いつになく大きな声を上げて、自分の考えの足りなさに呆れてしまう。
それから祐は、泉のあった方へと踵を返した。
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