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第20話 泉のほとりで
とぼとぼと元気を無くして、小さな泉へと戻る。
夏の気候でとっくに乾いた髪が、微かな風に揺れる。
泉のほとりで、ひとり佇むと祐は込み上げてきそうな涙をグッと堪えた。
一体これからどうすればいいのか…。
見ず知らずの土地。
頼れる相手も居ない上に、この格好。
途方に暮れるしか他にない。
どの位、そうしていたか。
随分と居たとは思うが、あれ以降誰も通る気配はない。
少しは期待していただけに、ガックリと項垂れる。
このままではいけない事も分かってはいるが、どうすればいいかも分からず。
「この水。…飲んでも大丈夫だよね?」
喉の渇きを覚えて祐は湧き水を両手に溜めてから飲む。
冷たくて美味しい。
改めてよく見ると、透明感がもの凄い。
「凄い…底まで透明だ。綺麗…」
余りの透明感に感動して、泉の水を両手に掬ってみる。
すると水面に何か光る物が映り、顔を上げた。
「わぁっ?!」
向こうから大きな蝶の様な虫が飛んでくる。
羽がキラキラ輝く蝶は、水面を踊るように飛び回る。
あまり大きくない泉の上をあっという間に飛び、蝶は祐の間近にやって来た。
羽は光りグラデーションが鮮やかだった。
「綺麗」
素直にポツリと感想がこぼれ出た。
蝶は光る鱗粉を撒き散らしながら、飛び回る。
泉の上はさながらステージとなっていて、祐は蝶々の織り成す夢の空間に心奪われていた。
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