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第50話 小さな争い

布から顔を覗かせた男が、声を上げた。 「休憩だ!」 するとその言葉に女達が顔を強ばらせた。 「?」 祐が疑問に目をパチクリさせていると、一人の男が縄を手にしながら「俺は泉の妖精にするぜ」と言いながら自分の方へと視線を向けてきた。 泉の妖精…? それはもしかして自分の事だろうか。 「待てよ!俺もソイツがいい!」 「お前はあの女が気に入っていただろうがっ、コイツは俺がっ」 人買いで普段は殆ど男は扱わない。 普通の男を扱った所で需要はとても低い。 それならば見目の美しい者を…と思うが綺麗な少年や青年はなかなか居ない。 たまに居たとしても既に貴族の情夫であったりして身元の確かな者が殆どだった。 それに男よりは女がいいのが本音でもある。 そんな中、見たことのない珍しい姿の綺麗な少年があの誰も殆ど通らない辺鄙な場所。 それもこの砂漠地帯唯一の森。 その貴重な水が湧き出る泉の中に居たとなれば、奇跡の存在となり男達が騒ぐのも仕方が無かった。 「お前ら喧嘩してろ!俺が妖精を…」 大勢の男達が祐の取り合いを始めたらしく、馬車の外は大変な騒ぎに発展しかけたその時だった。 「煩いですよ!」 騒ぎも突然上げられたアルゴの一言で、あっという間に静かになった。

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