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第55話 ことば

馬車で長い時間揺られ、ただ丸まっているだけ。 やれる事といえば頭を使って現状の把握につとめることだけだ。 「…そういえば…」 どうにか逃げられる方法はないだろうか…と諦めきれずに考えているうちに、祐はあることに対して疑問が湧き起こっていた。 あまりの常識から外れた出来事が立て続けに起きたせいで、自分はここへ飛ばされて以降日本語を喋っていた。 それなのに、何故か言葉が通じているのだ。 この馬車を囲む男達もアルゴも祐を捕まえて売ったあの男達も皆、顔つきはヨーロッパ辺りの外国人なのだが…。 お陰で意思の疎通は図れるので、それだけは有り難かった。 それに加えて馬車で移動というのも不可解だ。 このご時世に車もないとは、どういうことだろうか。 着ている服も何だか時代がかっているというか、現代的とはいえなかった。 グルグル頭の中を巡る大きな違和感に、とうとう祐は疲れきって考えを放棄してしまう。 「あ~っ、本当に訳が分からないんだけど…」 それから長い時間揺られた結果、精神的な疲れもあって不本意にも軽い眠りに着いてしまったのだった。 「おい。着いたぞ」 どれくらい走っただろうか。 次に祐が降ろされた場所は、外観は簡素で特別目立った所は無い建物の前だった。 まだ僅かな光の差し込みがあるので夜では無いと思われる。 しかし沢山の木々が建物を囲んでいるので、薄暗く気味が悪い。 もしかして逃げられるかも、と思ったもののそれは瞬間に砕け散る。 部下と思わしき男達が建物の周りを囲み目を光らせている為、脱走は益々許されないだろう。 そして祐達は籠ごと建物の中へと運ばれた。 「どうしよう…、これじゃ逃げられない」 先の見えない恐怖心から指先が震えてくる。 真っ直ぐ無機質な通路を進み、右に曲がった所にある広い空間へと運び込まれる。 そこには既に50近くの籠が置いてあり、中には女達が入れられていた。 その部屋の奥側へと祐の入った籠は静かに置かれた。

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