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俺と夜鷹が出会ったのは、俺達が中学に入学したばかりの頃。 人見知りで内気な俺は、新しい環境に馴染めず、いつも一人で居た。 友達を上手く作れないどころか、何故かクラスで浮いていて、からかわれる事も多かった。 休み時間はいつも一人で本を読んでいるか、寝た振りをしている。 それが俺の日常だった。 そんなある日、いつものように一人で本を読んでいたら、夜鷹が話しかけてくれたんだ。 「絵のモデルになって」 夜鷹はそう言って、俺をやや強引に美術室に連れて行った。 「えっと、名前なんだっけ?」 正面に座った夜鷹が、スケッチブックに筆を走らせながら話しかけてくる。 「篠岡だけど……」 「下の名前は?」 「…………っ……燕」 子供の頃は名前でからかわれる事も多かった。 だからこの頃の俺は、自分の名前が好きではなかった。 「燕?良い名前だね」 「そうかな……。  みんな変な名前だって言って笑うよ」 「そんな事ないよ!  俺、好きだよ、燕。それに、俺も鷹だしね」 「鷹?」 「うん、俺、夜鷹っていうんだ。奈雪夜鷹」 「奈雪くん……」 「夜鷹でいいよ。俺も燕って呼ぶし」 「夜鷹、くん……」 「くん要らないよ」 「…………夜鷹」 「……あの、夜鷹は、俺の絵なんか描いて楽しい?」 「うん、楽しいよ」 「変なの……。モデルならもっと違う人に頼めばいいのに……  俺みたいな地味なのじゃなくて、もっと華やかな……」 「俺はお前がいいんだよ」 「……なんで?なんで俺を描きたいの?」 「綺麗だったから」 「綺麗?俺が?」 「うん、綺麗だよ」 「そんな、俺なんか……全然綺麗じゃないよ……」 「俺には綺麗に見えるんだよ。  お前いつも窓際の席で一人でいるだろ?」 「好きで一人でいるわけじゃないよ……」 「窓から日の光が当たって、お前がキラキラ輝いて見えるんだ。すっごく綺麗だったよ」 「…………っ」 ――こんな俺に、声をかけてくれた夜鷹。 良い名前だと言ってくれた。 綺麗だと言ってくれた。 俺の絵を描いてくれた。 俺と友達になってくれた。 それだけで、俺は夜鷹を好きになってしまった。 この日から、夜鷹は俺の全てになった。

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