8 / 10
8
俺と夜鷹が出会ったのは、俺達が中学に入学したばかりの頃。
人見知りで内気な俺は、新しい環境に馴染めず、いつも一人で居た。
友達を上手く作れないどころか、何故かクラスで浮いていて、からかわれる事も多かった。
休み時間はいつも一人で本を読んでいるか、寝た振りをしている。
それが俺の日常だった。
そんなある日、いつものように一人で本を読んでいたら、夜鷹が話しかけてくれたんだ。
「絵のモデルになって」
夜鷹はそう言って、俺をやや強引に美術室に連れて行った。
「えっと、名前なんだっけ?」
正面に座った夜鷹が、スケッチブックに筆を走らせながら話しかけてくる。
「篠岡だけど……」
「下の名前は?」
「…………っ……燕」
子供の頃は名前でからかわれる事も多かった。
だからこの頃の俺は、自分の名前が好きではなかった。
「燕?良い名前だね」
「そうかな……。
みんな変な名前だって言って笑うよ」
「そんな事ないよ!
俺、好きだよ、燕。それに、俺も鷹だしね」
「鷹?」
「うん、俺、夜鷹っていうんだ。奈雪夜鷹」
「奈雪くん……」
「夜鷹でいいよ。俺も燕って呼ぶし」
「夜鷹、くん……」
「くん要らないよ」
「…………夜鷹」
「……あの、夜鷹は、俺の絵なんか描いて楽しい?」
「うん、楽しいよ」
「変なの……。モデルならもっと違う人に頼めばいいのに……
俺みたいな地味なのじゃなくて、もっと華やかな……」
「俺はお前がいいんだよ」
「……なんで?なんで俺を描きたいの?」
「綺麗だったから」
「綺麗?俺が?」
「うん、綺麗だよ」
「そんな、俺なんか……全然綺麗じゃないよ……」
「俺には綺麗に見えるんだよ。
お前いつも窓際の席で一人でいるだろ?」
「好きで一人でいるわけじゃないよ……」
「窓から日の光が当たって、お前がキラキラ輝いて見えるんだ。すっごく綺麗だったよ」
「…………っ」
――こんな俺に、声をかけてくれた夜鷹。
良い名前だと言ってくれた。
綺麗だと言ってくれた。
俺の絵を描いてくれた。
俺と友達になってくれた。
それだけで、俺は夜鷹を好きになってしまった。
この日から、夜鷹は俺の全てになった。
ともだちにシェアしよう!