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――夜鷹に別れを告げられた、次の日の放課後。
9月15日のこと。
夜鷹は学校の帰り、駅のホームで電車を待っていた。
いつもの駅で、いつもの帰り道だった。
夜鷹は部活でいつも帰りが遅くなる。
田舎という事も相まって、この時間はホームに人はほとんど居ない。
俺は駅の柱の影に隠れて、夜鷹が来るのを待っていた。
夜鷹の乗る電車の前に、いつもこの駅には止まらない特急列車が通る。
ホームに駅員の鼻にかかった声が響く。
もうまもなく特急列車がこの駅を通過するというアナウンスだ。
人がいないホームの中、夜鷹の背後に足音を殺し忍び寄る。
夜鷹は携帯を弄るのに夢中で、俺の存在には気付かない。
…………夜鷹
……………………さよなら。
――殺してやろう。
明確な殺意を持って、俺は列車の来る直前に、愛する恋人の背中を押した。
夜鷹が俺を置いて、どこか遠くへ行ってしまう……
他の恋人を作るかも知れない。
俺は夜鷹じゃないと駄目なのに、夜鷹はそうじゃない。
夜鷹が欲しい。
夜鷹を手に入れたい。
自分だけの物にしたい。
夜鷹にも、同じように思って欲しかった。
俺じゃなければ駄目だと、嫌だと。
俺を手に入れたいと、離れたくないと。
そう思って、俺に依存して欲しかった。
だけど夜鷹は、俺のそんな思いとは裏腹に、一人でどこかへ行ってしまう。
素直に『寂しい』と、『別れたくない』と、そう告げられなかった不器用な俺の選択した道。
それは、夜鷹を殺す道だった。
殺してしまえば、もう夜鷹はどこにも行かない。
俺の側から離れて行かない。
別れようなんて残酷な事は言わない。
他の恋人を作る事もない。
夜鷹の全てが手に入る。
本気でそう思った。
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