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第2話

「そうか、ならばいい…闇の奏歌月種の力を貴様らに見せてやる」 「くそっ、おいお前!逃げるぞ!!」 「え、俺関係な…」 俺を変な喧嘩に巻き込んでほしくなかったがいきなり王子ヤクザに米を担ぐように持ち上げられて走った。 ……俺、どうすりゃいいの? 今、下手に抵抗したら地面にこんにちはだろうなと思いジッと王子ヤクザの気が済むまで走らせた。 王子ヤクザは意外と体力がないのかすぐに息切れして数メートル走ったところで俺を投げるように地面に置いた。 結果として地面とこんにちはした。 鼻が痛くて座る体制になり擦っていたら王子ヤクザは地面に座った。 「お前っ、はぁ…ひょろい身体なのに…はぁ…重いな」 「そりゃあ小学生みたいに軽くないですよ、身長170は越えてるんで」 またなんか言いたそうな王子ヤクザを無視して家に帰ろうと立ち上がったら、なにか音が聞こえた。 何処から聞こえてくるのだろうかと耳をすませた。 …いや、これは音じゃない…歌だ。 美しい人を魅了する声が歌を奏でている。 殺伐とした空間に突然現れた場違いな音に動きを止める。 なんだろう、胸がざわつく。 「綺麗な歌だな」 「ばっ!!何やって!?」 歌に聞き惚れていただけなのに王子ヤクザがなにかに慌てていた。 ちょっと静かにしてほしいとムッとした感じで王子ヤクザの方を見て目を見開いた。 突然王子ヤクザが燃えていた。 え、怖い。 熱くないんだろうか、本人は涼しい顔をしているが… というかなんだあれは、現実ではあり得ない光景が広がっていた。 炎が地面から這い出てきて王子ヤクザを包んでいた。 消火器探さなきゃ… 「おい、何処行く?」 「消化器探しに」 「はぁ…これは良いんだよ、なるべく建物を燃やさないように努力する」 いや、努力だけじゃダメだろ…絶対燃やしちゃダメ。 また歌が聞こえた。 そして地面が揺れた。 王子ヤクザは身体から出る炎を放出して黒いフードの男に攻撃していた。 しかし何故か歌により炎は消えていた。 王子ヤクザは舌打ちしていた。 これは、現実に起こっている事なのだろうか。 「お前はもう少し狙われてる自覚を持て」 「…いや、俺関係ない」 「……まだ言うか」 王子ヤクザは俺の前に立ち再び炎を出していた。 足元のコレはなんだろうを覗き込む。 王子ヤクザを見ると黒いフードの男に気を取られていて全く気付いていない。 俺が立つ地面に黒い水溜まりのようなのが現れたから避けようと一歩後ろに下がった。 するとまた足元に黒い水溜りが出来て避けるの繰り返しになり王子ヤクザからどんどん離れていく。 何処から滴り落ちているのだろうか、いや…なんか地面から溢れている気もする。 「ねぇ、これって…」 「お前今集中してるから話しかけ…」 王子ヤクザはこちらを振り返りそこで言葉を切り目を見開いていた。 水溜まりから無数のトゲが現れて俺目掛けてくるのが見えた。 顔を真っ青にした王子ヤクザは俺に向けて竜巻のような火柱を出した。 俺を狙ってるのって実は王子ヤクザなんじゃ…と一瞬考えて気休めだがしゃがみ頭を抱えた。 地震の時は何でも頭を守れと言うからな…地震じゃないけど… そしてトゲがあと数ミリで刺さると思った時……暖かい何かで俺の体は包まれた。 なんだ?これ…涼しくて居心地がいい。 そういえば俺、トゲに刺さって…あるいは王子ヤクザの火柱で死んだんだんじゃなかったっけ? 頭を守っていた手を外し目の前を見ると水溜まりは消えていた。 それだけじゃない、俺は光っていた。 …いや、正確には元恋人に貰ったサファイアのペンダントが光っていた。 「…お前、俺の火柱も消したのか?」 「……危険人物」 俺はもう誰も信じないと言いたげな顔で電柱に身を隠した。 本当に御守りだとは思わなかった…元恋人に感謝しなきゃな。 ペンダントをギュッと握る。 王子ヤクザが近付くと高速で下がり別の電柱に隠れるとため息を吐かれた。 ため息を吐きたいのはこっちだというのに勝手な人だな。 王子ヤクザは逃げまくる俺とこのままだと会話出来ないと思ったのか離れた距離のまま話しかける。 「まぁいい、お前が本物の指揮者なら俺に見せてくれ…指揮者の力を」 「……とりあえず離れて」 「はぁ…」 また歌が聞こえた。 けど、さっきのように聞き惚れる事はなかった。 むしろ禍々しい悪魔の歌のように感じた。 綺麗な声なのに…なんでだろう。 ペンダントはまだ光っている。 もしかしたら俺にも王子ヤクザみたいな不思議な力が使えるかもしれない。 だとしたら王子ヤクザを倒せるかもしれない。 電柱から出てきて王子ヤクザを前に戦いを挑もうとしたら王子ヤクザは何処にもいなかった。 変わりにあの黒いフードの男がいた。 さては王子ヤクザ…逃げたな。 まぁ、不思議な力に目覚めた(多分)俺はなんか無敵になれた気分だ。 なんかかっこ良く中二病全開ポーズを決めると男は驚いた顔をしていた。 「くらえ!!俺の力!!」 「なんだと…」 俺は男に向かって手をかざした。 黒いフードの男は俺が何も出来ないと思ったのか驚いた顔をしていた。 俺はこの時、人生の中で最高潮だったのだろう。 これから起こる出来事も知らないで… バシャッと音がしてしばらく周りは静まっていた。 ポタポタと水滴が地面に染み込んだ。 「……おい」 「ごめんなさい」 男が口を開いたからすぐに謝った。 結果的に不思議な力は出た。 ……ただそれだけだった。 コップ一杯ぶんの水を顔面に被ってお怒りの男は俺に手をかざした。 回れ右をして急いで男がいる方と別の方に走った。 俺は逃げ足だけは早いとよく言われていたから自信はある。 しかしそんな自信もすぐに打ち砕かれた。 「うぶっ!!」 何かにぶつかった、今日で二回目だ…鼻がへっこまないか心配だ。 鼻の形を確認しながらぶつかった壁を見ると、それは壁ではなく黒いフードの男だった。 瞬間移動とか卑怯だ。 後退るがぴったりと距離を離さない黒いフードの男。 これは絶望的と言うのではないだろうか。 黒いフードの男は俺を見下し睨んだ。 「もう終わりだ、二度と指揮者が現れないように呪いを掛けて殺してやる」 「…がっ!!」 男に首を掴まれて地面に頭を強打した。 視界がボヤけて一瞬息が止まったが…大丈夫、まだ生きてる。 しかし男の手の力が強くて男の腕を掴むがびくともしない。 首にゆっくりと力を込められた、苦しい…早くなんとかしないと… 首を絞めるチャラチャラと音がした。 黒いフードの男は顔を険しくした。 「……コレ、邪魔だな」 「…そ、れは…」 まだ光るペンダントに触れようと手を伸ばす。 俺はそれを守るように両手でペンダントを握りしめた。 これだけは絶対に……渡さないっ!! ペンダントがよりいっそう眩い光を放った。 黒いフードの男はあまりの眩しさに俺に馬乗りになってた体を起こした。 俺はそれから意識を手放した。

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