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《逃避行 第Ⅰ章》瞬きの波③
クソっ
どうして進まないんだっ!
春のまだ冷たい海水が絡みつく。水を掻いてる筈なのに。全く前に進まない。
俺、こんなに泳ぎが下手だったか?
目前で水飛沫が跳ねる。
手を伸ばす。もう少し……
頑張れ!
水飛沫の中心に向かって鼓舞した途端に鼻と口の中、海水が入ってくる。
ウッ
あと少し……少しで手が届く。
届いた!
水飛沫の真ん中
腕を掴んだ。
「痛 ッ」
溺れる男の子の爪が目尻を掠めて、血が滲む。
暴れるなッ!
上手く体を掴めない。
冷たい海水が足の感覚を奪う。
白い波飛沫に飲み込まれる。
………沈…むっ
何とか、この子だけはッ
水を蹴った。
海水が肺に入る。
意識が蒼く染まる………
「もう大丈夫だ」
………熱い腕
逞しい腕が脇から俺の体を抱えて……濡れた髪の下の堅固な眼差しが意識を包む。
「その子、離すなよ」
ハァハァハァ
「昌彦、ありがとう」
昌彦に引っ張り上げられた浜辺で息をつく。
海に飛び込んだ昌彦もびしょ濡れだ。
「お前達はなに考えてるんだ!」
途端に雷号が轟いた。
溺れたという点において、俺は同じ
昌彦を心配させてしまった事に言い訳できない。
『この子』と同罪だ。
濡れた前髪
「そいつが……」
グシャリと昌彦が掻き上げる。
「お前に紹介したかった奴だ」
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