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第Ⅲ章 刻む羽②

唯の手をぎゅっと握っていた。 煙に咳き込む。離れた丘の上にまで、焦土の黒煙は押し寄せていた。 昌彦は何も言わない。 俺は薄々感づいている。 わざと…だ。 昌彦はわざと米軍機を唯に撃ち落とさせようとした。俺が止めるのを見越して。 唯が過去と向き合い、憎しみと訣別し、前を向いて進めるように…… 撃たない道を唯自身に選ばせた。 ………馬鹿者がッ 俺には分かるよ 幼馴染みで、恋人だから 昌彦と唯を抱きしめる。 「死ぬな」 声が震えた。 死ぬな…… 戦争は全てを奪う。 死ぬな 死なないでくれ 奪われても。 戦争の毒でも侵せない、たった一つの良心さえも、お前が死んだら消え失せてしまうだろう。 昌彦の広い胸に、俺と唯は抱きしめられた。 硝煙の風が吹いた。 地面に咲く白いタンポポが揺れて、綿毛の羽が飛び立った。 空へ………

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