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第6話
流されやすい性格なのだと思う。もちろんそれは私生活限定で、仕事中は決して、そんなことはない。惚れた弱みも相まって、延々とどこまでも流されていってしまう。
閉めきったカーテン越しの淡い朝の光が、電気の消えた寝室をぼんやりと薄明るくさせていた。先ほどまで、フラットの前に停まっていた運送屋のトラックの重々しいエンジン音が鼓膜を小刻みに揺らしていたが、今は歌うような鳥のさえずりだけが、どこからともなく聞こえてくる。
外の世界では健全な時が流れているというのに、自分たちときたら、なんて不埒なことをしているのだろう。
そんなことをぼんやりと思い、自嘲気味に口の端を吊り上げながらも、ポールはベッドの上ではち切れんばかりに膨らんでいるショーンの屹立を咥えていた。
えづくかどうかギリギリのところまで吸い入れては引きずり出し、引きずり出しては吸い入れ、血管が浮き出た裏筋をねっとりと舐める。鈴口から溢れ出すカウパーが唾液で薄まり、口内はほんの少しだけしょっぱい。それを飲み込みつつ、とくとくと脈打つ竿をたっぷりの新しい唾液でべとべとに濡らしていく。
「……んっ、ぅ……はぁ……」
「……ッ…、ん……いい、気持ちいいよ……」
頭上からか細く掠れた低音が聞こえ、ついで頭をぽんぽんと優しく撫でられる。仰向けに寝転がっているショーンは、衣服を何ひとつまとっていない無防備な姿で、ポールの口での施しを嬉しそうに受けていた。ちらりと上目遣いでショーンを見れば、スポーツ選手ばりに鍛えあげられた裸体をほんのわずかに強ばらせながら、興奮と愉悦と、慈しみをない交ぜにした笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
吸い寄せられるように目が合うと、ショーンは目元に薄く刻まれていた皺を深くし、「ん?」と顔を小さく傾ける。……そうしたさりげない仕草からも、綻ぶように色香が放たれるのだから、美形というのは怖ろしい。さらにはそこに歳相応の渋さや男らしさが加わるから、あてられそうになる。口淫に没頭し疎かになっているのに、裸の身体は熱く、ペニスは勃ち、透明な露をこぼしてはシーツにぽたぽたと小さなシミを作っていた。
「……ポール、もういいよ」
「ぅんっ……は、ぁ……ァ……」
ショーンに両肩を掴まれ、ぐっと押される。ポールは口から唾液まみれの陰茎を抜き、四つん這いの身体を起こして口元を拭った。舌にはカウパーの味が、鼻の奥にはカルキを彷彿とする臭いがねっとりと残っていたが、嫌な感じではなかった。むしろ、好きだった。
「舐めるの、上手くなったね」
ショーンに寄り添うように横になると、相手は嬉しそうな表情をこちらに近づけ、囁き声で褒めてくれた。まぶたを閉じれば、まるで薄いガラスに触れるような繊細さで下唇を舐められ、ちゅっと吸われる。……そんなものじゃ全然足りなかった。ポールはショーンの背中に腕を回し、かぶりつくように接吻した。肉汁を吸い上げるような音を立て、口の端から唾液が漏れるのを構うことなく、舌で相手の口腔を愛でた。
「……ッ、ぁ……」
おもむろに両手で尻を鷲掴みにされ、さらにはぐっと左右に広げられ、身体が小さく震える。それだけのことでも感じてしまう浅はかさに、ポールは少なからず羞恥心を覚えたが、それ以上に悦んでしまっていた。シャワールームで洗浄された部分が物欲しげに伸縮し、熱を持った陰茎にさらに熱が集まるのを感じながら、ほのかに甘いショーンの舌とべっとりと絡み、唾液と吐息を混ぜ続けた。
「んっ……ん、ッ……ぅ……」
「……っ」
ショーンの唇が離れた。塞いでいたものがなくなり、物寂しく思うも、頬をかすかに赤らめわずかに息を乱したショーンが、ベッドサイドに置かれたアンティークの木棚の引き出しを開け、コンドームの箱とチューブタイプの潤滑剤を取り出したのを薄目で確認すると、胸のうちで昂まるものを感じた。
それらを一旦枕元に置き、ショーンが覆い被さってくる。至近距離で視線が結ばれ、数秒間は静かに見つめ合っていたが、やがてどちらからともなくクスクスと笑い始めた。
「……今さらだけど、身体の方は大丈夫? 最後までできそう?」
「本当に今さらだ」
ポールはふふっと小さく噴き出し、痩せぎすながらも筋肉質な裸体をショーンの素肌に擦りつける。「こう見えて頑丈だって、知ってるだろ」
「そういえばそうだったね」
と言ってすぐ、ショーンは楽しげな笑みを浮かべ、右手を胸に這わせてきた。しっとりとした手のひらの感触に、身体はまた敏感に反応する。喉奥からまろび出た吐息には、上擦った声が混ざっていた。
「じゃあ、今日はたくさんしよっか」
「……ん……ぁ……アッ」
左の乳首を指先で弄られ、ビリビリとした感覚がそこから全身に広がっていく。背中がくねり、今度ははっきりとした嬌声が飛び出た。
ショーンの指は優しく、それでいていやらしく責めてくる。コリコリと芯を持ちだしたそれを柔く摘んだり、弾いたりしながら、淡い快感に身をよじっているポールを見下ろし、依然楽しげに、けれども艶やかに笑っていた。それから、右側の尖りを舌でべろべろと舐められると、ポールの身体は電気ショックを受けたかのようにびくりと跳ねた。
「あ、ぁっ……、ん……ッ」
「……きもちいい?」
じゅるじゅると胸をしゃぶりながら問いかけてきたショーンの頭を掻き抱き、こくこくと何度もうなずく。羞恥と気持ちよさで、素肌はすでに汗ばんでいた。初冬の気配を帯びた朝、鋭い冷気が漂っていた寝室は暖房をつけていたが、木棚の上にあるリモコンに手を伸ばすのは時間の問題だろう。
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