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第7話
ショーンに身体を触られると、いつもどうしてこうも感じてしまうのだろう。
……いや、考えずとも分かっている。道を歩けば何人もの女性が振り返るほどの恵まれた容姿、人当たりの良さ、経歴と職業、知的さ。ゲイであることをコンプレックスだとつゆも感じていない前向きさ……ショーン・スコットという男の特徴を挙げていけばいくほど、相手に困るような人生を送ってきてはいないことを容易く想像できた。
慣れているのだ。身体の相性云々もひょっとしたらあるのかも知れないが、自分と付き合う以前に色んな男との夜があったのだと、彼のひとつひとつの指の動きや表情、声や言葉が教えてくれた。それに対し、当初は劣等感であったり、嫉妬であったり、戸惑いが胸奥で渦を巻くことがあったが、今となっては彼にすべてを委ねておけばいいという安心感だけがあった。……もっとも、そういった心境に至るまで、それなりの時間を要したけれども。
だからいつも、脳も肉体もどろどろに蕩かされ、夢中になってしまう。どれだけ恥ずかしくても、これ以上にないというほどはしたなくなってしまう。そして、こちらがそんな姿を晒しても、ショーンは決して蔑まず、いきれた視線を向け続けてくれる。……嬉しくて、胸が苦しい。
「――ここも舐めようか?」
胸元から上腹部にかけて舌を這わせていたショーンがつと顔をあげ、こちらを見上げながら、右手をおもむろに下げ、反り返るほどに勃起しているポールの竿に触れた。裏筋をさらりと撫であげられ、背中がぞわぞわとし、思わず内股になってしまう。
「……、いや……いい……何も、しなくても……」
「そうだね。舐めたり触ったりしなくても、ちゃんとイけるもんね」
「……ッ」
新品のライターが勢いよく着火するように、一段と顔が熱くなる。……そんな風にしたのは貴方だと言い返してやりたかったが、できるわけもなく、右腕で顔の下半分を隠しそっぽを向けば、ショーンにからからと笑われ、頬にさらに熱が溜まった。うう、と微かに唸れば、ぽんぽんと頭を撫でられ、「ごめん、ごめん」と言葉が降ってくる。ショーンはそれから、ポールの下半身にあった右手を今度は枕元に伸ばし、ローションを取った。
蓋が開く音がした。見なくとも、ショーンの手のひらに無色透明の液体がスローモーションでとろりと落ち、広がっていくのが分かった。昨晩もこれまでもそうだった。そしてショーンは、それを人肌で温めてから指にまとわせ、こう囁いてくるのだ。
「冷たかったり、痛かったりしたら、我慢せずに言うんだよ」
「ん……っ、ぁ……ぅ……!」
左手で右太ももを開かれたかと思えば、ぬるっとした感触が窄まりを覆い、ぐちゅりと音をさせてショーンの指がゆっくりと直腸に沈んできた。冷たくも痛くもないが、異物感に全身がぞくぞくとする。ポールは依然、腕を顔に乗せながら、目の周りに皺を寄せ、小さな呻き声を漏らした。
1本目の指が入ってくるこの瞬間だけは、何度経験しても慣れない。身体が吃驚し、狼狽える。けれどもそれは、ほんの少しの間だけだ。根元まで挿入され腸壁をぬるぬると擦られ始めると、そこから熱と疼きが生じ、脳がそれらを快感と認識する。腰が浮き、くっと強ばる。呻き声が細々とした嬌声に変わってゆく。
「はぁ……ァッ、あ……」
「ポール、顔見せて……平気?」
「ん、ぅ……んむッ」
右腕をおろし、目をうっすらと開けショーンを見上げだところで、キスが落ちてきた。ちゅっ、ちゅっ、と唇を啄まれる。その間も、後ろを解す指の動きは止まらない。わざとではないかと疑いたくなるくらい、ぐちゅぐちゅと音が響き、ぐにぐにと腹のなかを弄られ、肉体も心も昂ぶる。
「……昨日もしたから、柔らかいままだね」
キスの合間にふふっと笑い声を溢して、ショーンがぼそぼそっと言ってくる。「2本目入れたけど、分かる? ほら、もうぐずぐずになって、奥まですんなりいったよ」
「……んぁ、ッ……ふ……ぅ……」
「苦しくないよね? 気持ちいい?」
「う、ん……っは……ァッ……あ」
異物感が薄れゆく代わりに、直腸から上の臓器が押し上げられるような感覚が強くなる。骨太なショーンの指による緩慢な抽挿は、やがて大胆なものになり、音や刺激は増していく。時折、襞を伸ばすように入り口を拓げられ、羞恥心が煽られながらも、粘膜が空気に触れただけで全身に甘い疼きが巡り、たまらない気持ちになる。
「んんっ……ふ、ッ……いい、きもち……!」
戯れのような口づけを終え、解放された唇は、半ばひとりでにそう動いた。あごを引き、局部に視線をやると、上向いた性器がぺたりと下腹部に垂れており、その奥でショーンの右手が前後にしきりに動いているのが見え、ますます興奮する。ショーンに自分の身体を、自分が目にしたことのない箇所を暴かれる行為に、ポールは悦んでいた。
「……はっ……ショーン、……ッ」
「……ん? 何?」
すがるように名を呼べば、ショーンは動きを止め、小首を傾けながらこちらを見た。こちらほどではないが、彼も息が乱れ、顔がぼうっと赤くなっていて可愛いかった。両腕をショーンの右腕に絡め、肩に顔を埋め、ぐりぐりと額を擦りつける。……胸のうちにある欲望は、行為が進むにつれてむくむくと膨らんでいき、今にもはちきれそうだった。
「……ゆび、もう……」
「あぁ……、物足りなくなってきた?」
「う……」
理性はぼろぼろと崩れつつあるものの、「そうだ」とはっきり言えず、腕の力を強めることしかできなかった。それで汲み取ってくれたのか、窪みから指が引き抜かれ、「腕、離してくれる?」と優しく言われる。
その通りにし、燃えるように火照った顔を上げれば、ショーンは避妊具の箱から連なった小袋を取り出し、そのひとつをちぎっていた。小袋を開け、円盤状のゴムをつまみ取ると、勃起し続ける自身に手際よく被せていく。
その様子をぼうっと見つめながら、ポールは口に溜まった唾液を飲み込んだ。……毎度のことだが、こんなに大きなものが自分のなかに入るのかと思うとぞっとする一方で、どうしようもないほどに歓喜していた。
口にすることは決してないが、セックスは好きだ。心の底から慕う男との行為なら尚更だった。
やおら身体を起こし、四つん這いになる。準備が整ったのだろう、ショーンが背後から腰を掴んできた。そして入り口に先端が宛てがわれると、それを受け容れるためにぐっと力んだ。
「挿れるよ」
「……、んっ……う、ぁ……あっ……!」
薄い薄い避妊具越しから伝わってくる芯のある熱に、背筋がぞくりと震えたのもつかの間、みちみちと肉塊を抉るような音を立て、それは入り込んできた。息が止まりそうなほどの圧迫感に全身からどっと汗が噴き出し、顔が歪む。ポールは伸びをする猫のような体勢をとり、シーツを握りしめ、最奥めがけ直腸を掻き分けていく質量に耐えた。
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