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第2話
都心部から車で20分ほどの場所が、彰彦の家だ。
富裕層が好むタワーマンションではなく、彰彦の両親が彼のために残した豪華な一軒家だ。
マオはここで住み込みで働いており、その対価として金銭を得ている身だった。
庭の草むしりをしていたマオは、立ち上がって上体を反らす。
庭の手入れは嫌いではないが、あまり長く屈んでいると腰が痛くなってくるのが難点だ。
「今日で20歳……成人しだんだ、俺……」
あまりピンと来ないが、今日からは酒もタバコも解禁になり、少年法ではなく成人法によって守られるようになる。
もっとも、少年法と成人法の違いなど、学のないマオに分かるはずもないが。
「けど、文字が読めるようにはなりたいかな……」
休日、彰彦が書斎にこもって読書をしている姿を見ていると、「本」というものへの憧れが強くなる。
もちろん学校へ行けば誰もが文字を読んだり書いたり、自由に学べるのだが、それは富裕層の話だ。
貧困層の人間はマオのように住み込みで働いている者が多く、学校へ行っている時間も金もない。
どうしたら本が読めるようになるのだろう。
どうしたら自分の名前を書けるようになるのだろう。
彰彦は仕事を終えると、本屋に立ち寄ってから帰宅することにした。
今日はマオの誕生日で、確か成人したはずだ。
彰彦の家で迎える5回目の誕生日。
過去4回用意したマオへの誕生日プレゼントは、受け取ってもらえなかった。
昼間杉本にプレゼントの渡し方を訊いたのは、実はどうすればマオがプレゼントを受け取ってくれるのかが知りたかったからだった。
「『誕生日おめでとう』というのは、毎回言っているが……心がこもっていないのか……?」
否、そんなはずはない。
彰彦はいつだって心からめでたいと思ってプレゼントを選び、贈ろうとしてきた。
ということは、選んだプレゼントがマオの気に召さなかったのかとも考えるが、マオはプレゼントを紐解くことなく「いりません」と断っている。
彰彦はそんなことを考えながら、本屋をぐるりと周回し、自宅で学べる文字の本を数冊買い込んだ。
もっとも、これをマオに贈っただけでは意味が分からないだろう。
だから、彰彦がマオに文字を教えてやるのだ。
彰彦は本を持って会計を済ませ、すっかり暗くなった外に出て首を竦めた。
冬独特の冷たい風が、マフラーの隙間から首元に入り込んだからだった。
さて、帰るとしよう。
マオがどんな反応を見せるのかが少し怖くはあるが、今年こそはプレゼントをもらってもらうつもりだった。
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