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第4話

それでも、受け取れないものは受け取れない。 マオは心を鬼にして、表情を変えず、彰彦と向き合った。 「彰彦様、どうぞお上がりください。鞄はこちらへ」 彰彦は玄関に突っ立ったまま、家の中に上がろうとしない。 「話を逸らすな、マオ。なぜプレゼントを受け取らない?俺からのプレゼントでは不満だということか?」 彰彦が喧嘩腰になって突っかかるが、マオは玄関へと下りて彰彦の手からバッグを取った。 いつもより重いそれは、マオへのプレゼントが入っているからだろう。 そこでマオも考える。 親切にされればされる分だけ、彰彦がマオを売ろうと決意した時の哀しみは大きいだろう。 だが、それはその時考えても遅くはないように思った。 今彰彦の哀しげな顔を見るより、売られる時にマオが哀しめばそれでいい。 「不満ではありません。ではお言葉に甘えて、彰彦様からのプレゼントをいただきたく存じます」 「本当か?」 「はい。お時間のある時に教えていただければ、と」 その返答を聞くなり、彰彦はようやく玄関から屋敷内に足を踏み入れた。 「先に風呂へ入る。その後食事で、プレゼントの説明は食事の後だ。いいな?」 「かしこまりました」 心なしか彰彦が笑っていたように感じるのだが、気のせいだろうか。 マオは彰彦の鞄の中から見え隠れしている、書店の名入りの袋を見つめ、鼓動を高鳴らせた。 彰彦は湯船に浸かりながら、ようやくマオにプレゼントを受け取ってもらえたことに安堵していた。 それにしても、一体どうしてあんなに頑ななのだろう。 さっきだって彰彦が食い下がらなかったら、マオは受け取らなかっただろう。 理由をマオに訊いたら、話してくれるだろうか。 「もしかしたら、貧困層にそういう風習があるのか……?」 彰彦は貧困層のことを知っているようで、知らない。 マオをこの家に置くようになったのも、仲介人が間に入っていたので、詳しいことは何一つ聞かされていない。 ただマオを紹介された時、咄嗟に「この子を雇おう」と直感し、売買契約が成立したという訳だ。 「彰彦様、お着替えを置いておきます」 浴室の外でマオの声がする。 しばらく黙っていると、脱衣所のドアがパタンと閉じられる音がした。 彰彦はしばし息を詰めた後、「はぁ」と盛大な溜息を吐きながら、浴槽により深く沈み込んだ。 マオは男なのか女なのかよく分からないような、中性的な顔立ちをしている。 そんな顔立ちだからこそ、街を歩いているとよく人身売買の仲介人に声をかけられるらしく、彰彦にとっては頭痛の種だった。

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