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第5話

彰彦が食事を終えると、マオは片付けのためにキッチンに籠る。 ついでに明日の朝食の仕込みをしているのだが、プレゼントの説明をしたい彰彦にとって、マオがいつまでも戻って来ないことを懸念してしまう。 もしかしたら、受け取ると言ったのは嘘なのではないか。 文字の読み書きなど、マオは望んでいないのではないか。 そんな負の感情に負けてしまいそうで、寝室に置いている赤ワインをワイングラスに注いで揺らし、鼻を近付けてみる。 芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、グラスを傾けて一口口に含んでみた。 「少し渋いな……」 「では、お取り替えしておきます」 「っ!?」 いきなり聞こえたマオの声に、彰彦は思わずドアの方を見た。 「いたのか……」 「ええ、何度もノックしたのですが……勝手にドアを開けてしまい、申し訳ございません」 「いや、俺もちょっと考え事をしていた。こちらへ来い、プレゼントの説明をしよう」 彰彦はソファに腰掛けると、マオにも隣に座るよう促す。 しかしマオはそうすることなく、彰彦の足元に正座した。 「なぜ絨毯の上に座るんだ?」 「ご主人様の隣など、使用人には過ぎたる場所ゆえ、です」 まったく、マオのこういう律儀過ぎる部分は決して嫌いではないが、こういう時にはもどかしさを感じてならない。 「では命令しよう。俺の隣に座れ」 「……かしこまりました。失礼いたします」 マオがようやく隣に座ったところで、彰彦は3冊の本をソファの向かいのガラスのテーブルの上に並べた。 「まずは易しいものからだ。これを手に取ってめくってみろ」 マオは赤いカバーの本を手に取って、パラパラとめくってみた。 何が何だかさっぱり分からない。 そもそも文字の何たるかを知らないのだから当たり前のことではあるが、こうも分からないものなのかと妙な部分に感心してしまう。 「全然分かりません」 「だろうな」 「これを、彰彦様が教えてくださるのですか?」 「そうだ。早速明後日の夜から始めよう」 そこでマオは「え?」と小首を傾げた。 まだ週は始まったばかりで、明後日は木曜日だ。 彰彦は「週末に教える」と言っていたはずなのに、聞き間違えているのだろうか。 「彰彦様、明後日は木曜日ですが……」 「だが定時で帰って来られる。明日は接待があるので無理だがな」 「明日、接待なのですね。夜食の準備はいかがなさいますか?」 「毎回訊くまでもないことだろう、必要だ」 彰彦は外食をほとんどしない。 接待であっても嗜む程度に酒だけを飲み、帰宅してからマオの手料理を食べるのだった。

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