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第7話

「あれ、三田村、今日の接待キャンセルしたん?」 朝出社するなり、杉本がスケジュールを確認しながら問うてきた。 「ああ。株主として接待を受けるのはどうにも気が引ける」 そりゃあそうだ。 株式投資をしている以上、彰彦も杉本もれっきとした投資先の株主ではあるが、その投資先から接待してもらってもあまりメリットがない。 投資先は更なる株式購入を期待するのだろうが、生憎2人は一つの企業に執着することがないので、どこの会社の株をどれだけ購入するかは相場感で決めている。 「ま、だよな。俺も。っと、その前に、マオちゃんにプレゼント受け取ってもらえたか?」 5度目のチャレンジの行方が、杉本は気になった。 「ああ、受け取ってもらった」 「まじで!?何上げたの?」 「物を上げたのではなく、文字を教えると約束した」 「は……?」 貧困層に文字を教えて、一体どうしようと言うのだろう。 彼らの大半は文盲だが、政府はそれを容認している。 余計な知識を授ければ富裕層を脅かす可能性があるとして、黙認しているというのが実態だ。 なのに彰彦は使用人に文字を教えようとしている。 ここは友人として止めるべきか、止めざるべきか。 「な、三田村?」 「なんだ?」 「お前、マオちゃんをどうしたいんだ?」 「どう、とは?」 「だからさ」と杉本は髪をかきむしりながら、言葉を探す。 ただの使用人として使い続けたいのか、そのうち売り飛ばすのか、その辺りのことが訊きたいのだが、上手く言葉が出て来ない。 「マオは俺の使用人だ。しかし三田村家の使用人で在り続けるためには、文字の読み書きが必要だ」 「なんでだよ?」 「例えば、俺が宅配を頼みたいとする。文字が書ければマオが宛名を書いて送ることができる」 「あー……そういう感じにしたいんだ」 彰彦にはマオを手放すという発想自体がないようだ。 それが本心か否かは、近々国会で議決されるであろう人身売買禁止法が実施されれば、おのずと分かってくるだろう。 「んで、今日の夜はどうすんだよ?」 接待を取りやめたのであれば、1杯飲んで帰ろうぜと提案した杉本だが、これまた見事にスルーされた。 「今日はBARの予約を入れてある。大事な話がしたいから、貸し切りにしてもらった」 「そのBARって、オカマがやってるあのBAR?俺も行っちゃだめ?」 「悪いがBARのオーナーに少し依頼したいことがあってな。お前と飲みに行くのは、別の日にしよう」 そこまで言われてしまうと、杉本としても引き下がらざずを得なかった。

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