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第17話
彰彦は昼食の弁当を食べたところで、マオに電話をかけてみた。
相手が文字を覚えてくれれば、携帯のメールでやりとりができるようになるな、と思いながら。
マオは3コール目で電話に出てくれた。
『三田村でございます』
「マオか。俺だ」
『彰彦様……?』
「今日、急な接待が入った。軽食を作っておいてくれないか?」
とてもではないが、詩織の店で何かを食べる気にはなれない。
別に不味いからという訳ではなく、彰彦が心底マオの手料理に惚れ込んでいるからだった。
『かしこまりました』
「それから、今日の授業は休みだ」
『はい』
彰彦は電話を切ると、少し妙だなと思った。
心なしかマオが鼻声だった気がしたのだ。
「どうしたよ?」
杉本に話しかけられると、彰彦は正直に「マオが風邪をひいたかもしれない」と打ち明けた。
「風邪って……なんで?」
「鼻声だった。今朝は何ともなかったのに、気になるな」
まったく、この友人はどうあってもマオを気遣わなければ気が済まないらしい。
同時に、これだけ使用人相手に強い想いを持っているなら、人身売買制度があろうがなかろうが、マオを手放すなんて選択肢は選べないのだろうと思った。
「風邪薬でも買って帰ってやれ」
「ああ、そうする」
「え、マジで買って帰んの!?」
「お前がそう言ったんだろう?それに俺も心配だからな……だが、たまにはマオを看病してやるというのもいいかもしれない」
これはもはや「恋」と言って差し支えない感情だろうと、杉本は思った。
もちろん口には出さないが、彰彦のマオに対する態度は、使用人に対するものではないと言い切れる。
大体、本当に使用人としてしか見ていないのであれば、過去を調べたり、文字を教えたりなどしないだろう。
それに彰彦は飲みに行ってもほとんど食べず、帰宅してからマオの手料理を食べていると聞く。
「どうした、杉本?」
「友人としての忠告だ。マオちゃんの過去を知っても、知らないフリをしろ」
「そうするつもりだと言ったはずだが?」
「お前はおめでた過ぎる。重くて酷い過去だったら、いくらお前でも受け流せないこともあるかもしれない。もっと自分に危機感を持てって言ってんだよ」
そういうことなのかと、彰彦はしばし顎を上げて天井を見つめた。
何もかもを知ったところで、マオを見る目が変わってしまっては、杉本が言うように本末転倒だ。
詩織の口からどんな事実が語られるのだろうか。
彰彦がドン引きしてしまうような、悲惨な過去が待ち構えているのだろうか。
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