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第19話

詩織の調査によると、マオはスラム街の出身だということだった。 両親は不明。 きっと育てることができず、スラム街に捨てたといったところだろうと、詩織は言う。 マオはそこで7歳くらいまで生活していた。 そして丁度7歳の誕生日を迎えた頃、人身売買の仲介人に目を付けられた。 見た目がいいので、高く売れると踏んだに違いないというのが、詩織の主張だった。 「マオちゃんはね、(さかき)っていう富豪の元に売られたのよ。それはそれは法外な金額でね」 よくよく訊けば、仲介人が榊に吹っ掛けた金額は、彰彦がマオを買い受ける時に提示された金額の5倍近くだった。 「その榊ってのが、またロクでもないヤツでね……」 そこで詩織は2杯目のテキーラを流し込む。 「愛玩として、マオちゃんを買ったの」 「愛玩……?」 「主に夜のお供をさせるために、買ったってこと」 彰彦にマオの写真を初めて見せられた時、「この子の貞操は無事ではないかもしれない」と懸念したが、その予想は当たっていた。 榊はマオが15歳になるまでマオを蹂躙し続け、飽きたからと言って売りに出したのだ。 当然身体を蹂躙され尽くしたマオに高値などつくはずもなく、その後運良く彰彦に買ってもらえたという経緯だったのだ。 「信じられん……そんな目的で人を買うヤツがいるのか……?」 「アタシもそう思うわ。でもね、いるのよ、そういうヤツ」 「なぜ、マオは逃げなかった……?」 「それが、これまた酷い話でね……」 詩織はまたもやテキーラを煽った。 どうやら本当に飲まなければ言えない話のようだ。 ちなみに彰彦は最初の1杯しか飲んでいない。 元々あまり酒に強くないので、テキーラ1杯でも少し頭がクラクラしているくらいだ。 「貧困層が買われた家から逃げ出すのは、夜が多いの」 その方が追手に捕まらずに済むから、という理由だ。 「だからね、夜目を潰す薬が出回ってんのよ」 詩織はスカートのポケットから錠剤の入った小瓶を取り出し、彰彦の目の前に置いてやった。 見覚えのない瓶だ。 薬局で見たこともない。 一体これは何だと訊けば、詩織は「今言ったでしょう?」と返してくる。 「夜目をじわじわと潰す薬。これを飲むとね、真っ暗なところでは何も見えなくなるのよ」 「──っ!?」 「愛玩用に買われた子は、まず間違いなくこれを飲まされてるわ。三田村ちゃん、マオちゃんに暗いところを歩かせてみなさいよ」 「そんな……まさか……」 逃がさないために縛り付ける薬。 こんな物、売る方も買う方もどうかしていると、三田村は拳を握り締めた。

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