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第21話

ところで、男が男を愛玩として買うのはどうしてなのだろう。 彰彦は純粋に疑問に思い、詩織に訊いてみた。 「妊娠の可能性がないからよ」 「──っ!?」 「いたたまれないわ……むしろ毛嫌いされるのは女の子の貧困層なんだもの」 そんな理由で、凌辱していいはずがない。 マオの意思を問わぬまま、犯していいはずがない。 しかもマオは夜目を潰されている可能性が高い。 逃げられないように、檻の中に閉じ込めるために、薄闇でさえ認識できなくなる目にするなど、非人道的にも程がある。 「俺は……マオに何もしてやれないのか……?」 「どうして何かをしてあげたいって思うの?不憫だから?」 「そう思うことの何が悪い?」 「大いに悪いわ。同情なんて心の中だけですればいいの。間違っても口や態度には出さないであげて」 マオは軽食を作り終えると、キッチンの片隅に座って膝を抱えた。 勉強をする気になれない。 彰彦の帰りを待ち遠しいとも思えない。 今頃マオをいつ売るか、どこに売るかが決まった頃だろうか。 「怖い……できれば、スラム街に戻りたい……」 スラム街にはまともな食べ物がない。 まともな衣服も、まともな寝場所もない。 だがまともでない飼い主に買われて身体を好き勝手にされることだけは、ないと言い切れる。 彰彦が帰宅したら、「スラム街に戻らせてください」と訴えてもいいだろうか。 どこにも売らず、ただ捨ててくれと頼んでも許されるだろうか。 「ただいま」 「!?」 そうこうしているうちに、彰彦が帰宅した。 マオは立ち上がって重い足取りで玄関を目指す。 いつもなら嬉しいはずのご主人様の帰宅が、今日に限っては全く嬉しくない。 「お、おかえりなさいませ、彰彦様」 「ああ、やっぱりだ」 「え……?」 マオは彰彦に薬を差し出され、絶句した。 まさか夜目を潰すための薬だろうか。 「電話をした時、少し鼻声だっただろう?今もそうだ。だから風邪薬を買ってきた」 「かぜ……ぐすり……?」 マオは薬を受け取ると、パッケージを見つめてみた。 読める文字と読めない文字が混同しているが、パッケージの内側にある薬瓶は、夜目を潰すためのそれとは違っている。 「あの、彰彦様……どうして……?」 「風邪は辛いだろう?」 「け、けど……俺はただの使用人で……ご主人様に薬を買ってもらうなど……」 「そのご主人様という呼び方は、やめておこう。俺を様付けで呼ぶのも禁じる」 それが彰彦が出した答えだった。 マオを恋愛的な意味で好きかどうかはこれから考えるとして、2人の間に根付く上下関係を解消したいと考えていた。

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