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第23話

「なぜそんなことを言うんだ、マオ?」 彰彦はマオの顔の火照りなど気にすることなく、問い詰める。 マオは彰彦の裸体から目を逸らしながら、たどたどしい言い訳をするしかない。 「俺……元々夜は物が見えにくいんです」 「──っ!?」 「だから……夜に教えていただくのは、少しきついと言いますか……」 「夜目を潰されているからなのか?」 なぜそれを──? マオは大きな瞳を更に大きく開き、彰彦の台詞を吟味した。 この人は愛玩として買われた男が夜目を潰されると言う悪しき習慣を、知っているのだろうか。 ということは、マオの過去についても知っていると考えて間違いなさそうだ。 「仰る通り、俺は夜目を潰されています」 「なぜ言わなかった?」 「どうして言えるんですか……?」 そう、どうして言えるのだろう。 玩具として飼われていて、夜逃げ出せなくするために夜目を潰されているなど、誰だって聞きたくないに違いない。 もちろんマオから言えるはずもない。 なのに、彰彦はどうして言えると思うのか。 まあ、それは彼が世間知らずの富裕層に属しているからなのだろう。 「マオ、すまなかった」 彰彦はマオのか細い腕を引き寄せると、その逞しい胸に顔を押し付け髪を撫でてくれた。 「俺はお前に無断で、お前の過去を調べた」 「そう……ですか……」 落ち着いて考えろ この状況をどう解釈すればいい? だが生憎今のマオが彰彦の腕の中に閉じ込められているのは現実に起こっていることであり、彼がマオの過去を調べたというのもまた然りなのだろう。 ではマオの過去を知って抱き締める彰彦の心境とは、どんなものなのだろう。 「何を言っても傷口に塩を塗り込むようなものだ……だからこれからに目を向けよう」 「これから……?」 「そうだ。文字を教えてやる件だが、夜がきついのなら週末の昼間に変更しよう」 「え……?」 何だか話がおかしな方向へ向かっているように感じるのは、気のせいだろうか。 彰彦は人身売買制度が撤廃されても、マオを手元に置き続けるつもりなのだろうか。 「あ、彰彦様……俺は……売られるんですよね……?」 とうとう自ら訊いてしまった。 地獄へ堕ちる宣告を待つつもりだったが、待ちきれなかった。 「売る?俺が、マオを?」 「はい……人身売買は2週間後に撤廃になって……巷では売買が横行していると聞きます」 確かに、今はまさに駆け込み需要ということで、富裕層がこぞって貧困層を売りに出したり、手放したりしているというニュースが相次いでいた。

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