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第24話

彰彦は、案外抵抗がないものだなと思いつつマオの華奢な身体を抱き締めていた。 これが詩織だったらと考えると、「さすがに無理だ」と思うが、相手がマオであれば別に抵抗はないのだから、不思議なものだ。 「マオ……君に辛い思いはさせないと約束する」 「え……?」 「2週間後に人身売買が撤廃されるんだ、君はもっと喜ぶべきだ」 よくよく聞いてみれば、彰彦はマオを売るつもりも手放すつもりもないらしい。 それはそれで嬉しいことだが、マオの存在が彰彦の邪魔になることはないのだろうか。 「なぜ邪魔だなんて考えるんだ?俺はマオの手料理がないと生きていけないんだがな」 「っ!?」 「すまないな、こんな格好で抱き締めたりして。でも、君があまり思い詰めてもいけない、そう思ったんだ」 彰彦は抱き締めていたマオをようやく解放すると、マオの目線まで屈んで優しく言ってくれた。 「君はこれからもずっと、ここにいてくれ」 嬉しい。 泣きそうだ。 こんな風に誰かに必要とされたことがないだけに、殊更彰彦の言葉が胸に沁みる。 だが、だからこそこの人の邪魔にはなりたくないと強く思った。 「約束だ、マオ」 彰彦はマオの髪をクシャっと撫でてバスルームへと戻って行き、マオは脱衣所に置かれた彰彦の寝間着に顔を埋めてみた。 大好きな匂い。 洗剤でも柔軟剤でもない、彰彦の身体から発せられる彼自身の匂い。 この匂いに包まれていたいと思う一方で、どうしても迷惑になりたくないと思ってしまう。 さっきまでのマオは「売られるかも」、「手放されるかも」と怯えていたが、彰彦の気持ちを知った今であれば、売られることも手放されることも怖くない。 「多分……好き、なんだ……」 いつからそう思っていたのだろう。 昨日今日に芽生えた感情ではなく、長らく心の奥底にあったもののように感じる。 「俺は……汚い……」 彰彦に好きだと言うことは、一生ないだろう。 何と言ってもマオの身体は前のご主人様によって、隅々まで蹂躙され尽くしている。 ツ──、と涙が頬を流れた。 もっと綺麗な身体であったなら、「好きです」と言えていたかもしれない。 穢れを知らない身であったなら、「ずっと一緒にいたい」と対等な関係を構築することに前向きになれたかもしれない。 だが現実は哀しいほどに真逆だ。 マオは汚れきっており、とても彰彦に告白できるような身ではない。 「彰彦様……好きだなんて、俺に言われたって迷惑ですよね……どうか、お幸せに」 マオは呟くようにそう言うと、脱衣所から出て行った。

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