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第27話

時計の針が午前9時を差そうというその時、杉本はドアを蹴破らんとする勢いで入ってきた彰彦を見て、思わずコーヒーを零しそうになった。 「マオが……!」 「マオちゃん、どうかしたん?」 「いなくなった!」 よくよく事情を訊いてみると、彰彦が最後にマオを見たのは昨夜だということだ。 入浴後の彰彦の着替えを用意したところで、てっきり1階にある自室で寝ているものだとばかり思っていたのに、今朝その自室を覗いてみたらもぬけの殻だったという訳だ。 「とりあえず、落ち着け。なんでマオちゃんがいなくなったのか、心当たりは?」 「ない。ああ、ただ……」 「何だよ?」 「思わず腰にタオルを巻き付けただけの姿で、抱き締めてしまった……それが気持ち悪かったのだろうか……」 バカらしいと杉本は一蹴した。 彰彦は真剣なのだろうが、無理矢理一緒に入浴しようとしたというような展開でないのなら、いなくなる理由にならないように感じたのだ。 「詩織にも連絡してみる!」 「え、あのオカマ?」 杉本も詩織の店には何回か行ったことがある。 声は男のものだったが、見た目はわりと美人だったような印象があった。 「アイツはだたのオカマじゃない!」 「じゃあどんなオカマなんだよ?」 「アイツは警官なんだ!」 「は……?」 いやいや、それはちょっと信じられない。 警察と言えば公僕で、BARを副業にしていていいのかという疑問が脳内に浮かぶ。 「嘱託社員と言えば分かりやすいか?」 「ああ……常勤の警官じゃないんだ?」 「そうだ。だからアイツの情報網は半端ないし、こういう時に頼りになる!」 彰彦は携帯に詩織の電話番号を呼び出し、コールしてみた。 何度鳴らしても出る気配がない。 まあ夜の商売をやっていれば、今頃眠りに就いたというところだろう。 彰彦はそう察すると、今度は詩織の別の番号を呼び出してかけてみた。 大変申し訳ないのだが、こっちの番号は寝ていても起きなければならないという、緊急用の電話だ。 『何かあったのぉ?』 やはり寝ていたのだろう、起き抜けの間抜けな声が耳朶を打つ。 「詩織、三田村だ」 『え、ちょっと……本業の方での事件かと思ったのに、どういうつもりよ?』 「マオがいなくなった!一緒に探して欲しい!」 詩織はしばし電話の向こうで沈黙していたが、『分かったわ』と言って彰彦にいなくなった経緯を問うてきた。 彰彦は杉本にしたのと同じ話を聞かせると、詩織に盛大に呆れられてしまった。 『三田村ちゃん、惚れられちゃったのかもねぇ』

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