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第28話
詩織の言葉に彰彦は戸惑うが、今はそんな場合ではない。
とにかくマオがどこにいるのかを突き止めなければ、仕事どころではない。
「詩織!どこかマオがいそうな場所は!?」
『一番確率が高いのはスラム街でしょうけど……果たして行くかしらねぇ?』
「じゃあ、どこなんだ!?」
机を叩かんばかりの勢いで怒鳴る彰彦を見つめる杉本は、彼がマオという成人男子に心底惚れているのだろうと察した。
相手は男だが、性別が同じことなど彰彦にとってどうでもいいことなのだろう。
「三田村、マオちゃんの写真って持ってるか?」
実は杉本はマオと会ったことがない。
いつも彰彦から「マオ話」を聞かされてはいるが、面識を持ったことは一度もないのだ。
だから探せと言われて「はいそうですか」とは言えない。
詩織に向かって怒鳴っていた彰彦は、財布の中から1枚のスナップショットを取り出し、杉本の方へ差し出してきた。
「なんだ、この子!?めっちゃキレイじゃねーか!」
思わずそう怒鳴ってしまうほどの美貌の持ち主。
道理で彰彦が入れ込む訳だと、納得できた。
杉本はその写真を複合機でコピーすると、まだ詩織と会話中の彰彦に返し、自分はコピーした写真を持ってビルの外へ出てみた。
マオは結局どこにも行く宛がなく、スラム街近くのカフェでコーヒーを飲んでいた。
そろそろ会社が始まった時間なのか、スーツを着たビジネスマンの姿が店内に点在している。
「彰彦様の朝食を、準備してくるんだった……お弁当も……」
今頃彰彦はマオがいなくなったことを、きっと嗅ぎ付けているだろう。
探して欲しいとは考えていない。
むしろこのまま探すことなく、放っておいて欲しい。
あの人の姿を見たら、「抱いてください」と口にしてしまいそうで怖かった。
詩織は意外なことに、彰彦に「その場で待機していなさい」と命令してきた。
冷静さを失った人間は、些細なことを見落とす可能性があるからだと言う。
「じゃあ詩織が探してくれるのか?」
『そうするしかないでしょ。まあ十中八九貧民街だとは思うけどね』
「100%じゃないのか?」
『何事にもリスクは付き物なのよ。いいから三田村ちゃんはオフィスで待機、何かあったらアタシから連絡するわ』
そこで電話が切られ、彰彦は杉本の携帯に電話してみた。
「捜索は詩織に一任した。戻って来てくれ、杉本……」
気が気じゃないが、多分彰彦も杉本も動かずにいることが一番なのだろう。
ここは詩織の捜査能力に頼ろうと、彰彦は力なく言って電話を切った。
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